秩父夜祭、あす2日から 多くの客を魅了する屋台の「曳き踊り」1年以上前から稽古 地元民の特別な思い

曳き踊りで同じ舞台に立つ(左から)関川紗奈さん、福島英一さん、関川妃奈さん=秩父市上町

 12月2、3日に埼玉県秩父市で開催される秩父夜祭(ユネスコ無形文化遺産)は、勇壮な屋台や笠鉾(かさぼこ)が市街を練り歩く、山車の「曳(ひ)き回し」が醍醐味(だいごみ)だが、花柳志寿代・杵屋正十郎一門(同市中町)による「曳き踊り」も、毎年多くの観客を魅了する。街のつじつじや秩父神社、神門前などに4町会(宮地、上町、中町、本町)の屋台が止まり、時代衣装をまとった少女らが長唄三味線に合わせて優美な舞を披露する。祭り再開を願って稽古を重ねてきた同一門の生徒たちは今、屋台行事に華を添える準備を3年ぶりに進めている。

 長唄の曲を演奏する「地方(じかた)」と、その曲を踊る「立方(たちかた)」で構成する同一門の曳き踊りは、「秩父祭の屋台行事と神楽」として、国の重要無形民俗文化財に登録されている。毎年、屋台4町会から委嘱を受けて、宵宮(2日)と大祭(3日)に、屋台上で曳き踊る。

 普段は、妻の二代目花柳志寿代(塩谷晃子さん)が日本舞踊を、夫の三代目杵屋正十郎(塩谷勝男さん)が長唄三味線を別々に指導。夜祭が近づくと、演奏と踊りの合わせ稽古を行う。勝男さんは「踊り手の適正に合わせて演目を毎年変えているので、1年以上前から稽古を積まないと、舞台には上がれない」と説明する。

 昨年と一昨年の夜祭は山車の巡行がなく、曳き踊りの見せ場もつくれなかった。「稽古に張り合いが出ずに、やめてしまった生徒もいる」と勝男さんはこの2年間を振り返る。今年の夜祭開催が正式に発表されたのは10月だが、同一門は「来年こそは開催できる」と信じ、昨年末から曳き踊りの準備を進めてきた。

 今回、立方を務めるのは、地元の5歳から20代の若き踊り手7人。今月17日の合わせ稽古に参加した、小学5年の関川妃奈さん(11)は、3歳から日本舞踊を習い、夜祭の舞台に立ってきた。「今年は、今までで一番難しい演目(藤娘)に挑戦する。中止の間も稽古を積んできたので、堂々と演じたい」と自信をのぞかせる。

 曳き踊りは、屋台が秩父神社から市街地(国道299号)を巡行する間、各ポイントに停車し、約10分間披露して回る。関川さんは、今年の出演に特別な思いを抱く。12月2日の中町屋台と、3日の本町屋台の曳き踊りで、小学3年の妹、紗奈さん(8)と、祖父の福島英一さん(70)との3人共演が実現するからだ。

 関川さんは「妹(紗奈さん)は本来、2年前の夜祭で初舞台を経験する予定だった。今年ようやく妹の踊りが見られるので、うれしい」と声を弾ませる。地方として出演する福島さんは「孫2人と屋台に上がれる貴重な場を楽しみたい。来年も共演できるように、今後も腕を磨いていく」と話した。

 3日の中町屋台では、藁科陽音(はるの)さん(6)が立方に初挑戦する。小学5年で、いとこの勅使河原健匠(けんしょう)さん(11)と同じ屋台で曳き踊る。藁科さんは「本番で着る衣装が楽しみ」と笑顔を見せた。

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