「死にたい」と毎日メールする教え子、連絡途絶えた6年後に結婚報告 相談3千件超YouTuberの思い

熊谷市で3年間塾講師を務めた際、「所得格差を痛感したのが活動の原点」と話す葉一さん=群馬県高崎市の自宅で

 動画投稿サイトYouTubeで教育系チャンネル「とある男が授業をしてみた」を運営する、中高生に人気のYouTuber葉一(はいち)さん(37)が今年、活動10周年を迎えた。動画を視聴した「教え子」からは連日、いじめなど多くの相談が寄せられ、懸命に生きる子どもたちの背中を押し続けてきた。「言葉は悪いけれど、自分の活動は『延命』だと思っている。解決はできない。それでも『あと1週間頑張ってみよう』という感覚の延命をずっと続けてきた」と語る。

 葉一さんは福岡県出身。幼少期を旧与野市(現・埼玉県さいたま市中央区)で過ごし、群馬県に移り、現在は高崎市在住。東京学芸大学卒業後、教材販売会社に約10カ月営業マンとして勤務した後3年間、熊谷市で塾講師となった。

 チャンネル開設のきっかけは塾講師時代に感じた所得格差。勉強したくても経済的な理由で塾に行けない家庭の子を放置できず、2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設した。小学生から高校生までを対象に、5教科の基礎を分かりやすく解説している。

 動画の中でいじめ体験を打ち明けたところ、つらい経験をしている視聴者から「人間関係がしんどい場合、学校に行くべきですか?」「リストカットをしている友だちになんと声をかけたらいいでしょうか?」とメールなどで相談が寄せられるようになった。

 これまで受けた相談件数は3千件以上。勉強や進路のほか、友人や恋人、家族との関係など多岐にわたる。相談者の約9割は中高生で、中には大学生や社会人、保護者なども。FM NACK5の影響で動画内で始めたコーナー「だらだラジオ」や音声メディア「Voicy」で自身の生き方や経験を基に答えている。

 今年2月には音楽活動にも挑戦した。「いじめに遭っていた中学時代、音楽に救われた。いつかこの活動で音楽にも携わりたかった」。自身が作詞した「この場所から」は前に進む教え子たちを見送る卒業ソングで、「悩みを抱えていてもいいんだよ」というメッセージを込めた。

 昨年、高校卒業の直前から連絡が途絶えていた教え子から6年ぶりにメールが届いた。友人関係で悩み、毎日のように「死にたい」とメールを送ってきていた子だった。そこには結婚の報告と、ウエディングドレス姿の写真が添えられていた。

 「自分がやってきたことが正しいのかは分からない。それでも何年もたって今、前を向いて生きている姿に、間違ってはいなかったんだと感じている」

 相談を通じ、現代の子どもたちが抱える生きづらさを実感している。葉一さんは「昔はいじめを受けても家に帰れば、解放された。いまは交流サイト(SNS)の普及で悪口がいつでも目に触れてしまう」と語り、「子どもたちのお手本になろうとは思っていない。こういう考え方もあるよという選択肢を提示したい」と力を込めた。

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