AIで持続可能な農業を LAplust(ラプラス) 佐世保高専の同級生で起業 <長崎の新興企業 ①>

「農業の製造業化」に挑むラプラスの(左から)原崎さん、田中さん、井手さん=長崎市西坂町

 革新的なビジネスモデルで急成長し、地域の生活や社会に新たな価値をもたらすスタートアップ(新興企業)。岸田文雄首相が提唱する「新しい資本主義」実現に向け、その投資額や数を10倍程度に増やす目標を掲げ、県や金融機関も支援策を拡充している。その時流の中で奮闘する県内の起業家らを紹介する。

 「誰も食に困らない世界」-。その実現のためLAplust(ラプラス、長崎市)が掲げるのは「農業の製造業化」。最先端の人工知能(AI)で持続可能性を高めようとしている。
 代表の田中宏樹さん(30)の実家は雲仙市のイチゴ農家。収穫期は寝る間も惜しんで働く父母を見て育った。幼少期からプログラミングを学び、「技術で両親の負担を減らしたい」という熱意が今の根底にある。
 佐世保高専を卒業後、電波鉄塔の管理点検をする会社で働きながら、独学でAIのプログラムを構築した。高専の同級生で都内の大手電機メーカーに勤めていた原崎芳加さん(30)に芯の強さと技術力を見込まれ、独立しようと誘われた。同じ同級生で県内造船会社勤務の井手雄太さん(30)も加わり、2019年、3人で資本金100万円を出し合って起業。東京で同居しながら走り出した。
 最初は田中さんが前職で開発した、電波鉄塔管理点検の書類整理を省力化するシステムを商品化。全国の同業者に広まり、資金面でゆとりが生まれた。それを元手に農業分野へ進出した。
 新たに開発したシステムの一つが、農作物の病害虫診断機能。葉や茎をスマートフォンで撮影すれば、人の目に代わり、AIの目がすぐに病名を特定し、適切な農薬を提案する。被害を最小限に抑えられ、3万人以上の農家が利用する農作業管理アプリに採用された。
 東京都農林総合研究センターなどと共同開発したシステムは、無人直売所にカメラを据え、野菜などの陳列状況をリアルタイムの映像で農家も客も把握できる。効率よく欠品を補充できるため、ある導入農家の収益は20%向上した。
 現在、製造業の分野で検証中のシステムがある。AI搭載カメラで作業員や設備の稼働状況を自動的に常時記録し、現場の改善活動に役立てる。「人数や時間、個数など今まで計測できなかったデータを集められ、製造業だけでなく、物流、都市計画などにも生かせる。このAIの目は人口減少という社会課題に対応する技術になり得る」。田中さんはこう先を見据える。
 これもあくまで「農業の製造業化」に向けた一歩。最終的には、高度な環境制御と生育予測で野菜を年間を通じて計画生産できる「植物工場」構想につながっていく。そのために必要な資金的体力や知能、制御技術を蓄積していく。

 【企業プロフィル】 LAplust 「ライフアシスト+テクノロジーズ」を略した社名には「技術で人の人生を支えたい」という意味を込めた。2022年に拠点を関東から長崎市へ。従業員は社外顧問を含む5人。人の目を超える精度や速度で動画像を解析できる「AIの目」が強み。


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