響く言葉、響かない言葉

 何度も頭を巡っている。野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の監督、選手が発した言葉が胸を打つのは、何よりも「心の底からの声」をそのまま語ったからだろう▲準決勝でサヨナラ打を放った村上宗隆選手は打席に立つとき、送りバントも頭をよぎったという。不調が弱気を招いたが「任せた。思い切っていってこい」という栗山英樹監督の言葉を伝え聞き、腹をくくった▲これに限らず、一念、一心の声を多く聞いた直後だからかもしれない。「日本との揺るぎない連帯を伝えたい」。強い決意のはずが、どうも心に入らない▲ウクライナを電撃訪問した岸田文雄首相の真意は「負い目を払う」ことだったとされる。先進7カ国(G7)で唯一、首脳が訪ねていなかった。兵器を提供することもできない▲エネルギーや、兵器に当たらない装備品の支援を表明して訪問の果実とした。「やっと格好がついた」「面目は保ったな」というのが首相の「心の声」だとすれば、言葉が響かないのも合点がいく▲訪問時の手土産は、広島県の必勝祈願のしゃもじだったという。あげつらうわけではないが、願うべきはウクライナ「必勝」ではなく、一日も早い「停戦」だろう。野球でも「必勝」を願ったが、同じ言葉でも心の響きはまるで違う。(徹)

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