コストは“ビワの10分の1” 手間少ない アボカド栽培に活路 長崎の耕作放棄地問題解決へ

アボカドの木の成長具合を見て、希望を感じる森さん=長崎市千々町

 耕作放棄地の拡大が問題となっている長崎市で、アボカド栽培に活路を見いだそうとする動きが広がっている。アボカドは近年女性を中心に人気が高まっており、他の果樹に比べ手間がかからないとされる。課題解決の切り札として独自メニューを売り出す試みも始まった。

□高齢農家向き

 長崎アボカド普及協議会会員で同市千々町の森常幸さん(76)は約5年前、アボカド栽培に乗りだした。これまでビワやミカン、桃を育ててきたが、収益安定化のためアボカドに着目。昨年12月、自身が運営する果樹園で品種の一つ「ベーコン」を初めて収穫した。
 かつて、果樹園の辺り一面にビワがなっていたが、農家の高齢化や後継者不足などで栽培面積は次第に減少。自身も年を重ね、高い所に実がなるビワの収穫は体にこたえるように。「アボカドはビワの10分の1のコストで収穫できる」と森さんは笑顔を見せる。
 栄養豊富で、近年健康志向の消費者に広く好まれるアボカド。農薬散布などの手間がかからず、低い所に実がなるため高齢農家向きの作物として注目を浴びる。農林水産省によると、2019年のアボカド収穫量は全国で計約13トン。データを取り始めた16年の計約8トンから徐々に増えている。本県は19年時点で「0トン」と緒に就いたばかりだ。

□県内ワースト

 森さんの取り組みに触発され、近くのビワ農家、山下登さん(80)も20年からアボカド栽培を始めた。「3本植えたが病気になり今は1本だけ。昨年ようやく花をつけた」。ビワは短期間で収穫しなければならず天候の影響も受けやすい。「先日の寒波でビワが全滅しそうだから、アボカドに可能性を感じている」と希望を託す。
 課題もある。熱帯果樹栽培コンサルティング(鹿児島)の米本仁巳代表は「湿り過ぎても乾き過ぎても駄目で、ストレスや寒さにも弱い」と弱点を指摘し、品種選びと環境の重要性を強調。「アボカドはあくまでもサイドビジネスと考え、数種類の果物を育てよう」と呼びかける。
 長崎市の耕作放棄地面積は21年度、約3200ヘクタールで県内ワースト。農地全体の半分以上を占める深刻な事態だ。アボカド以外に耕作放棄地問題に対応できる作物として米本さんは、▽低温と加湿土壌に強いピーカンナッツ▽ベーコンと耐性が似ているマカダミアナッツ-を挙げた。

森さんが初収穫したアボカドを使った料理=長崎市役所

□柔らかく濃厚

 「食育の日」(1月19日)にちなみ、同市役所の食堂で、森さんが初収穫したアボカドを使った独自メニュー「長崎市産アボカドのポークのチーズ焼き」が提供された。150食限定でわずか30分で完売。市職員の後藤ゆうかさん(23)は「すごく実が柔らかく濃厚な味わい。豚肉とも合う。また食べたい」と話した。
 森さんの孫、純之介さん(25)が今年後継ぎとして長崎市に戻り、今後一層、家族でアボカド栽培に力を入れるつもりだ。耕作放棄地問題の解決も視野に入れながら、純之介さんは「祖父母、両親に栽培のノウハウを学び、安心安全な長崎産アボカドを届けたい」と意気込んでいる。


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