「旦那が仕事を頑張ってるのに、何をやっているの?」 “無意識”が阻む女性参画 小値賀町議会の行方・2

立石さん(左奥)の講座に耳を傾ける町民ら=小値賀町笛吹郷、町離島開発総合センター

 「今、自治(そこ)にある危機!」。こう銘打った長崎県北松小値賀町公民館主催の課題解決講座が昨年12月から町内で開催されている。議員のなり手不足を考えてもらう機会にと全6回の予定で企画され、町議会の現状や選挙の仕組みなどを町民10人が学ぶ。
 講師の立石隆教(りゅうきょう)さん(71)は同町議を6期務め、2019年に引退した。議長時代には議会基本条例の制定や、各地区に議員が出向き意見を交わす「出前議会」など数々の改革を先導。「自治の主権者は住民。その一人一人の意志や地域を思う心が集約される場所が議会だ」と強く思う。
 開講4回目の1月26日夜、立石さんは全国市区町村議会の8割強に女性議員がいると説明。そして自虐気味に付け加えた。「うちは残りの2割弱に入っている。今の時代に女性議員がいないのは問題ではないか。なんとかせにゃいけん」
 小値賀町議会事務局などによると、これまで町議選に立候補した女性はいない。前々回の15年は、若手女性が告示日の直前まで悩んだ末に断念したという。
 小さな島の中に深く息づく「無意識」に一因があると立石さんはみる。「旦那が仕事を頑張っているのに、あなたは何をやっているの?」。出馬を検討した女性に周囲が投げた言葉がそれを物語っていた。「嫌がらせでもなんでもない。その家庭のことを分かっているから心配して言う」(立石さん)
 町議会に助言役として任命された「議会モニター」の松永清美さん(61)も「小値賀の文化だ」と口をそろえる。「女性が前に出るのを(世間が)良しとしない。一歩下がってという“美学”もある。女性の社会進出は都会に比べ遅れている」。町役場でも女性が課長以上の幹部になった例がない一方、モニター会議や議会主催シンポジウムなどでは男性よりも意見を述べる女性が多いという。
 若者の参加も乏しい。03年と07年の改選時は40代が立候補したが、11年以降は全員50代以上に。この要因に議員報酬の低さを挙げる町民は少なくない。月額18万円は県内最低で政務活動費もない。家族を養うには他の食いぶちが不可欠になるが、議員との兼業ができる職種は限られてくる。
 そこで議会は15年改選時に合わせて50歳以下の月額報酬を30万円に引き上げたが、対象年齢層の立候補はなく、3年後に制度を廃止した。立石さんによると、少なくとも条件を満たす男女3人が出馬を検討したが、「金目当て」と言われる不安や家族の反対などで見送った。
 議員という職業そのものの魅力を問う意見もある。島外から移住し民泊を経営する長谷川雄生さん(37)は「議員は必要」と強調しつつ、「議員になれば自分の人生がどう豊かになるのか、どんな学びを得られるのか。報酬を上げても、そこが見えてこない限り(若者の立候補は)なかなか難しいのではないか」と冷静に指摘する。


© 株式会社長崎新聞社