“若年性認知症” 「人間性尊重を」当事者が思い訴え 県庁でフォーラム

自身の体験について語る田中さん(右)と廣瀬さん=県庁

 65歳未満で発症する「若年性認知症」を知ってもらい患者を支えるヒントになればと、県と「認知症の人と家族の会県支部」が県庁でフォーラムを開いた。当事者の田中豊さん(53)=長崎市=は家族や福祉、職場や自治会に支えられて生活していると明かし「『個性』と受け止め、人間性を尊重してほしい」と訴えた。
 若年性認知症は若い世代で発症するため、見た目に影響が出にくく、周囲の理解が得られにくい状況にある。県と家族の会県支部は2015年からフォーラムを共催し、10日に6回目を開催した。
 当事者の田中さんと、支援する東長崎地域包括支援センター認知症地域支援推進員の廣瀬大祐さんが講演した。田中さんは職場でミスが増えるなどの症状があり精神科を受診。診断が出た時はショックが大きかったが、1年半かけて「子どものためにできることをやろう」と前向きに受け入れることにしたという。周囲に打ち明け、理解を得ながら生活している。
 廣瀬さんは、主治医と職場の産業医の連携や自治会長への相談、子どもへのカウンセリングなど当事者と家族の不安を軽減するよう取り組んだ。田中さんは自治会長から「絶対引っ越さんごとよ」、職場の社長からは「最後までうちの会社で面倒見るから」と温かい声をかけられたという。
 田中さんは、ミスが増えたり仕事が制限されたりしたが、業務を転換し上司や産業医が職場に説明して働き続けられている。しかし無理解や偏見から差別的な言動を受けることもあり「好きで認知症になるのではないし、誰でもなる可能性がある。身近な人がなったときを考えれば周囲の理解が必要だとわかる」と語った。廣瀬さんは「勇気がいるかもしれないが、不安に感じたら誰かに相談してほしい」と呼びかけた。
 奈良県のSPSラボ若年認知症サポートセンターきずなやの若野達也代表も講演。当事者が地域と共に働ける場の創出や仲間同士で支え合う県のピアサポート事業の構築などに取り組んだ経験などを紹介し「当事者のニーズを具現化してきた。自分もやりたいと思えることをやると新しい支援に近づける」と語った。
 自身の体験を語る認知症本人大使「ながさきけん希望大使」の委嘱式もあり、田中さんと金井田正秋さん=松浦市鷹島町=が就任した。任期は2年。
 認知症の人と家族の会県支部は電話相談を受け付けている。毎週火、金曜の午前10時~午後4時。同会県支部(電095.842.3590)。


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