「聖マリア観音像」全パーツ到着 南島原 10月末完成予定、来春一般公開

展示室に無事、搬入された聖マリア観音像に満面の笑顔の親松さん(右)と石川代表理事=南島原市南有馬町

 1637~38年の「島原の乱」の犠牲者を追悼するため神奈川県藤沢市在住の彫刻家、親松英治さん(88)が制作した高さ9.5メートルの木彫りの「聖マリア観音像」の頭部など最終パーツが25日、南島原市南有馬町に到着し、展示室「マリア館(仮称)」に搬入された。親松さんも現地入りし像を組み立てる。10月末に完成し、一般公開は来春を予定している。
 巨大な観音像は構想から約40年、材料費だけで1500万円を超える私費を投じて制作。樹齢200~300年のクスノキを輪切りにして積み上げていく工法で作られている。親松さんが南島原世界遺産市民の会に無償譲渡した。
 島原の乱の舞台となった原城跡では、江戸幕府のキリシタン弾圧や圧政に蜂起した信者や農民ら約3万7千人が犠牲になった。親松さんは周辺に犠牲者を弔う慰霊碑などがないことを知り「彫刻家としての使命を感じ制作を始めた」と言う。2014年に南島原市に寄贈を申し出た。
 市も原城跡が世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産になることを見込んで、巨像が観光資源になると歓迎。15年に像の運搬費など約2800万円を予算化。市議会も可決したが、「政教分離に反する」との声が市民から寄せられ、「市を二分する懸念があり混乱を避けたい」と寄贈を辞退した。
 その後、市民有志が受け入れを目指したが、16年に交渉は打ち切られた。親松さんは「(政教分離問題に)釈然としなかった。生涯かけた大作の完成を楽しむ間もなく引き渡すのを惜しむ心もあった」と当時を振り返る。関東のキリスト教団体へ譲渡する話もあったが「工法や工期、予算などで折り合いが付かなかった」と話す。
 18年4月に市民有志に改めて寄贈を申し入れた。市民有志もマリア像を生かした地域活性化などを目的に20年3月に「南島原世界遺産市民の会」(石川嘉則代表理事)を設立し、原城跡を一望する同市南有馬町白木野地区に展示室を設けて設置することを決定。募金活動し賛同する市民らから約3700万円の寄付を受けた。
 石川代表理事は「国宝級の観音像が南島原に無事、移設できた。この上ない喜びで、市内外の方々にお披露目する日が楽しみ」と期待を寄せた。親松さんは「まだまだこれからがひと仕事。この地で何百年も愛される像になるよう責任を持って総仕上げをしたい」と話した。


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