NPT延期で西田充RECNA教授 「痛手だが、準備期間できた」 核兵器禁止条約の課題解決を

NPT再検討会議延期について「痛手だが、準備期間と捉えるべきだ」と語る西田氏=長崎市文教町、長崎大核兵器廃絶研究センター

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、1月開催が再延期された核拡散防止条約(NPT)再検討会議。日本政府代表団の一員として出席予定だった元外務省専門官で長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)教授の西田充氏(50)に、延期の余波や発効から1年を迎えた核兵器禁止条約との関係性などについて聞いた。
 西田氏は2005年から3回、外務省職員として再検討会議に出席。その経験から今回も同省の依頼を受け、アドバイザー的な役割を担う予定だった。
 西田氏はNPTについて核軍縮や不拡散、原子力の平和利用など「核の論点のデパート」と強調。再検討会議での議論は国際社会での核を巡るさまざまな協議や交渉に影響を与えると指摘する。こうした機会が遅れるのは「痛手で、それなりの影響はある」とした。
 5年に1度開かれる再検討会議は20年から4度延期され、NPTが軽視されているように映ることも懸念する。ただ、あらゆる利害関係者がひしめき合う中、最終合意の採択は全会一致が原則。「対面で膝詰めの議論が必要であり、オンライン開催は不可能」。例年より会議前の議論が不足していることも危惧する。
 一方、会議に向けては、成果につながる「お土産」を準備しようとの意識が生まれるとされる。今月、米中ロ英仏の核保有五大国首脳による「核戦争回避」を最重要責務とうたった共同声明もその一つ。「今までの政策を何か変えたわけではないが、首脳による声明には大きな意味がある」と一定評価した。
 15年の再検討会議では合意文書を作成できなかった。成果文書が出なかった後の今回は、切迫感が高まった上での議論が交わされるとみる。想定される論点は、ロシアや中国を中心に高まっている「核使用リスク」の低減。具体的な措置まで踏み込めるかどうかが注目される。
 今回は21年1月の核兵器禁止条約発効後、初めての会議。「条約ができた意義は大きいが、NPT体制の信頼感が揺らぎうる状況にある。NPTの重要性を再確認するために、条約の取り扱いは最後までもめるだろう」とみる。
 核保有国が参加していない同条約については、核軍縮を検証する枠組みが現段階では不十分な点を問題視。仮にイランがNPTを脱退して同条約を批准した場合、現状では秘密裏に核兵器を保有することが理論上は可能で、別の選択肢を与えることになる。「核兵器禁止条約がNPTをアンダーマイン(阻害)させる可能性はある。課題を埋める作業は必要」とする。
 再検討会議は8月に開催の方向で調整している。「準備期間ができたと捉えるべきだろう。この延期を奇貨として、日本の優先課題を特定し、合意できるよう外交を展開していくことが重要だ」と提案した。

 【略歴】にしだ・みちる 福岡県出身。1996年4月外務省入省。在米日本大使館、軍備管理・軍縮課、ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部などで軍縮不拡散分野に従事。2012年4月から長崎大核兵器廃絶研究センター客員准教授。21年8月に外務省を退職し、同年9月から現職。


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