見たい未来@長崎 2022知事選<2> ひとり親家庭福祉会ながさき事務局長・山本倫子さん 夢は支援必要ない社会

「生活困窮は遠い世界のことではない」と話す山本さん=長崎市、出島交流会館

 -生活困窮のひとり親家庭の支援を通じてどのような社会が見えているか。
 私たちの世代が子どもの頃は困っていれば近所の人が声を掛けてくれた。でも今は近所付き合いが少ない上、コロナ禍でより孤立が進んでいるように思う。一方、困窮する人々の姿が報道されるようになり、「力になりたい」と感じる人が増えた印象がある。街頭で食料の寄付を募っていると、そのように何度か声を掛けられた。ただ、どこを通じて支援をすればよいのか分からなかったと。

 -児童扶養手当や生活保護など公的な支援はあるのに、なぜ民間による食料、学習、就業などの支援が必要とされるのか。
 確かに以前に比べて学費減免など公的な支援は増えたが、世帯収入でぎりぎり対象にならない生活困窮者への支援は乏しい。さらに親やきょうだいも貧困のため、協力を得られにくいケースが増えているように思う。さまざまな制度が充実しても、必ずはざまの部分は存在する。そこに私たちのような団体の活動へのニーズがあるのではないか。

 -2019年にひとり親家庭を支援する「つなぐBANK」を結成し、長崎市で活動を始めた。
 先月から長崎市内で3期目(1年間)の支援を始めた。対象は136世帯としていたが、大幅に上回る681世帯から申し込みがあった。支援世帯には2カ月に1回食料品などを提供するが、抽選で漏れた世帯とも公式LINE(ライン)でつながりストックが多いときは支援する。だけど食料提供だけでは生活は改善しないので、無料の学習支援、ランドセルなどの学用品の無償提供、就職支援などにも取り組んでいる。この活動は対馬、雲仙、西海の3市に広がった。県内の他の自治体や団体にもノウハウを伝え、立ち上げを支援している。多くのボランティアに支えられている。

 -活動の原動力は。
 7年ほど前、長崎市内のある家庭の支援に入った時、マヨネーズやケチャップしか食べていない子どもに出会った。外見は普通の子と変わらなかった。わが子が同じ状況だったら、おなかいっぱいにしてあげたいと。その後も似たような境遇の子どもたちに出会い、遠い世界ではなく、私たちが暮らす長崎のまちに、生活に困窮している親子がいる現実を日々突きつけられた。この現実をもっと知ってほしい。一つ一つ改善に動いてきたことが今の活動につながっているが、こうした支援が必要のない社会になることが私の夢だ。

 -ただ貧困は現実に存在する。県や市町に何を求めるか。
 行政機関に「貧困」の専用相談窓口はないため、各部署が連携して支援してほしい。国が示す一律の支援策ではなく、各地域の実情に沿った施策が必要だ。県が重要課題と位置付ける新幹線が開業し県内に人々が集まってきた時、子育てに優しいまちと感じてもらえるだろうか。ひとり親家庭には安心して働けるよう病児保育などが不可欠だが、十分に足りているか。市町ごとにどんな支援が必要なのか。そこまで考えて施策を打たないと定住人口も増えないのではないでしょうか。

 【略歴】やまもと・りんこ 1969年生まれ。長崎市出身。2011年に一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさきに入り、12年から現職。19年に結成した「つなぐBANK」は県や民間団体などと連携し、ひとり親家庭を総合的に支援している。


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