子ども追い詰める教師の言動 「次は何を怒られるの?」 無表情で涙 教室から足遠のく

 教師の言葉や態度が子どもを追い詰めることを知ってほしい-。長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」のLINE(ライン)に、長崎県内の40代女性からこんな投稿が寄せられた。女性の小学4年生の長男は、担任の言葉遣いや態度に恐怖を感じて教室にいることができなくなり、現在は1日の多くを別室で過ごしている。全ての子どもが伸び伸びと学校生活を送るためには何が必要か。関係者らを訪ね、探った。

 「わすれものをしただけで(ごめんなさいはちゃんと言った)15分ぐらいせっきょうされた」。新学期が始まったばかりの今年4月9日。女性の長男が持ち帰ったプリントの裏には「今日言われたこと」というタイトルと共に、担任から掛けられた複数の言葉がメモされていた。「始業式の日から嫌がり始めて…」。記者にプリントを見せた女性は沈んだ声で明かした。

女性の長男が1学期当初に担任の言動を記したメモ。次第に「先生が怖い」と訴えるようになり、登校を渋るようにな った(濵崎武撮影)

 女性によると、長男は活発な性格で、学校で友人と遊ぶのが大好き。それまで登校を渋ったことはなかった。だが4年に進級した直後から「担任の先生が怖い」「行きたくない」と言い、学校を休む日が増えた。

 担任はベテランの女性教諭。長男によると、担任は宿題を忘れた児童を机ごと黒板の前に移動させて授業中に宿題をさせたり、教科書を忘れた際に他の子に見せてもらうことを禁じたりなどの指導をしていた。詰問するような言い方も度々あった。周囲の友人に対する言葉掛けや指導を見たり聞いたりすることも耐えられなかった長男。「次は何を怒るのか」とおびえているように女性には見えた。「『そんな人もいるから割り切りなさい』と10歳の子どもには言えなかった」

 5月の大型連休後、女性は夫と一緒に学校を訪ね、担任と教頭に事実を確認した。女性によると、担任は「そんなつもりはなかった」と弁解しながらも一部の言動を認め、「自分の至らなさで傷つけたことは反省したい。気を付けたい」と述べたという。だがその後も気になる発言や指導は止まらなかった。長男は1学期の間は何とか登校。だが2学期初日の朝から、無表情で涙を流し、教室にたどり着くことができなかった。

 ランドセルを背負おう、車に乗ってみよう…。女性と夫は長男が少しずつ学校に近づけるように毎朝言葉を掛け続けた。「この子が原因ではないのに」。車に乗って泣きだす長男を見て悔しさが込み上げた。

2学期初日の朝、無表情で涙を流した長男。少しずつ教室で過ごす時間を増やしているが、担任に対する不安はまだ消 えない(写真はイメージ、濵崎武撮影)

 新学期から約1週間後、別室登校ができるまでになった。何とか元通りに学校生活が送れるようにと学校と教育委員会に再度相談。担任への指導の状況や担任の交代の可能性などを尋ねたが、回答は「担任本人も悩んでいる」「指導をしておく」に終始した。女性の夫は「教育熱心な先生なのは分かるが、自分の言葉が子どもを傷つけることを理解してほしい。同じような思いを他の子どもにしてほしくない」と訴える。

 学校と教育委員会は長男の状況を「異常事態」「大きな問題」と受け止め、「当たり前の学校生活に戻してあげなければならない」と強調する。一方、担任について学校側は「(指導を)きつく受け止めた子どもが少なからずおり、以前はそのフォローが足りないことがあった。だが、(本年度は)ほぼ的確な言葉掛けをしている」と説明。教員全体に言葉の重みを意識するように促したり、担任には個に応じた対応の必要性を指導したりしているとした上で、「担任に感謝する保護者もいる。子どもにとって(担任の)排除が一番ではない」とする。

 現場の小学校教諭は子どもとの向き合い方をどう考えるのか。県内の30代の教諭は自身も、子どもたちが一度に話し掛けたりしてすぐに対応が思い付かない時に混乱し、感情的な言い方になる時があると明かす。「自分は『先生分からないから、いったん落ち着かせて?』と子どもに伝えるよう心掛けているが、経験のある先生は自分で解決しなくてはと思ってしまうのでは」と推測。「言っていることが正しくても(子どもが受け止めきれないなら)自分が変わるしかない」と話す。

 「今回の案件は氷山の一角」。そう指摘するのは小学校教諭の経験を持ち、学級での人間関係の形成などについて研究する青山新吾・ノートルダム清心女子大准教授。自身の指導が子どもにどう受け止められるかを察する担任の感度の弱さに言及する一方、個人の資質の問題だけではないと強調する。「子どもには多様な感じ方があると意識し、その行動の背景を学校全体できめ細かに見ていく場が必要」とし、「指導のバリエーションを広げる努力をしながら、『この子をどう育てるか』という視点に立ち返って保護者と一緒に進むべきだ」と話す。

 「教室でみんなと一緒に授業を受けたい」。折に触れて両親に伝えてきた長男。今も別室登校を続けながら、最近は教室にいる時間を自分から増やしている。一方、女性は同じ学級の保護者や子どもたちから担任の言動に不安を抱いている児童が他にもいると聞く。「子どもたちが頑張らないといけないのでしょうか」。女性は今日も問い続けている。(嘉村友里恵)

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