五島・久賀島をツルの越冬地に 中学生が模型作製

ツルの模型(デコイ)を完成させた久賀中の生徒=10月、五島市立久賀中(日本生態系協会提供)

 長崎県五島市久賀島の干拓地をツルの新たな越冬地にする試みが進められている。国内最大の越冬地、鹿児島県・出水平野で感染症がまん延し絶滅するのを防ぐため、人工的に飛来を分散させるのが狙いだ。市立久賀中の生徒たちは先月、上空から呼び込むための模型(デコイ)を作製。住民たちは冬空を見上げ、ツルを待つ。
◆種の存続
 出水平野には、毎年10月中旬から12月にかけ、1万羽を超えるツルが繁殖地のシベリアや中国東北部から飛来する。出水市などによると、世界のナベヅルの約9割、マナヅルの約5割がここで冬を越すという。
 以前から過密状態が課題として指摘されており、感染症で大量死した場合、種の存続が危ぶまれる。実際、2010年には高病原性鳥インフルエンザに感染したナベヅル7羽が死亡。今月も同市内の養鶏場で鳥インフルウイルスが検出された。
 環境省などは02年度、九州、中国、四国地方の計4カ所を分散の候補地に設定(本県は新上五島町)。14年、出水以外の複数地域で千羽以上の越冬を目標に掲げたが、「人為的に分散させるのは前例がなく難航している」と関係者は明かす。

干拓地の休耕田に設置された模型(デコイ)=五島市久賀町

◆地域協力
 そんな中、白羽の矢が立ったのが久賀島だった。かねてツルが上空を通過したり、地上で羽を休めたりする姿が目撃されていた。今年2月には、島中央部の干拓地に約70羽が1~2時間ほど降りた。
 同省から候補地の選定業務などを委託されている環境保護団体「日本生態系協会」(東京)の関健志専務理事は18年、当時久賀町町内会長だった江頭一男さん(77)に干拓地を越冬地にできないか打診。住民側の承諾を得て、所有者から借りた休耕田(約4千平方メートル)に水を引き込み、ねぐらになるよう整備した。
 江頭さんは「島に居ついたツルを観察したい」と期待する。活動に協力する五島市の鐙瀬(あぶんぜ)ビジターセンター職員、出口敏也さん(58)も「久賀島は、車の通行量や電線の少なさなど越冬地に適している」と話す。
◆生徒動く
 地元の中学生も動きだした。久賀中の生徒9人は先月、出水市立鶴荘(かくしょう)学園の生徒と分散化の必要性についてオンラインで意見交換。上空を通過するツルを地上に誘い込むため、ツルをかたどったデコイ(約130センチ)を3体作製した。
 関専務理事らは、同学園から贈られた1体と合わせ計4体を干拓地に設置。3年の大櫛優樹さんは「ツルが来るように祈っている。飛来したら驚かさないように遠くから見守りたい」と願う。

 同協会は干拓地に中継カメラを設置し、継続的に飛来状況を確認。関専務理事は「地元の理解があってここまで進めてこられた。(越冬地になれば)地域活性化や環境教育の面でも効果が期待できる」と話す。

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