信頼関係の証 「健三さんのベンチ」 斜面地に住む高齢者へプレゼント

真新しいベンチに座り、地元自治会の八木会長(中央)、磯野副会長(左)と話す健三さん=長崎市十人町

 長崎ランタンフェスティバルの主会場、湊公園(長崎市新地町)に近い斜面地。階段を100段ほど上ると、真新しい2台のベンチがある。十人町の住民から「三角広場」として親しまれている場所だ。高齢化が進む地域で行き交う人がひと休みできるようにと、近くの「グループホーム友愛」に入所する知的障害者の原口健三さん(34)がコツコツと貯金してプレゼントした。
 社会福祉法人みのり会(長崎市)が運営する友愛には障害がある18歳以上の24人が暮らしている。
 健三さんは当時十人町にあった障害児施設みのり園に小学6年生で入所。「行ってらっしゃい」「お帰り」と声をかけてくれたのは住民たちだった。長年、健三さんを見守る友愛の管理者、本村寿実惠さんは「口数は少ないけれど、心の中ではうれしかったと思います」。
 昨年末のことだ。地域のボランティア活動から帰った健三さんが本村さんに話し掛けた。「ベンチが壊れていて危ない。プレゼントしたい」。10年ほど前に設置されて以来、補修しながら住民に愛用されてきたが、かなり傷んでいた。
 市内の店舗で荷物の搬出入などの仕事に取り組む健三さんだが、経済的に余裕があるわけではない。本村さんが「お金どうする? 貯金してみる」と提案すると健三さんはうなずいた。自ら貯金箱を用意。「どうせなら楽しく」と、施設職員は「わくわく貯金」と名付け、健三さんの思いを応援した。
 約半年後の今年6月、お金がたまると、組み立て式のベンチ2台を購入。「木材が傷みにくいように」と、組み立てる前に防腐・防虫効果があるペンキを自分で何度も丁寧に塗った。
 7月に入って地元自治会、十人町1組の会合に本村さんが出席。「健三さんがベンチをプレゼントしたいって言ってるんです」と伝えると、みんな笑顔になった。八木一郎会長(84)が「感謝状を贈ろう」と提案。満場一致で決まった。
 7月16日、ベンチの寄贈式に合わせ、八木会長は感謝状を準備。健三さんに渡すと、照れくさそうにほほ笑んだ。「うれしかった」

 2004年4月、「みのり会地域ふれあいボランティアの会」が発足した。メンバーは健三さんら友愛の入所者たちだ。清掃活動や高齢者のごみ出し代行、自治会と一緒に合同防災訓練などに取り組んでいる。
 時間をかけ、信頼関係を築いた住民と入所者。八木会長は「障害者への偏見みたいなものが正直、私にも地域にも以前はあったと思う。でも高齢化が進む中、今では私たちが助けてもらっている」。磯野元孝副会長(79)も「自分は脚が不自由。でもね、祭りなどで帰りが遅くなると、一緒にいた友愛の人たちが支えながら階段を上ってくれる」と感謝の言葉を並べる。
 本村さんは「障害者だから守られなきゃいけないという考えではなく、どんどん地域に出てもらった。それを住民の皆さんが受け入れてくださった」。互いの信頼が「健三さんのベンチ」という形になった。

組み立て前にペンキを塗る健三さん(グループホーム友愛提供)

© 株式会社長崎新聞社