原爆テーマ「漫才」公演へ 話の“触れにくさ”変えたい 吉本興業・アップダウン

オンライン取材に応じたアップダウンの(右から)阿部さん、竹森さん。原爆をテーマに、2人芝居や歌を織り交ぜた漫才を8月に公演する

 吉本興業所属のお笑い芸人「アップダウン」の阿部浩貴さん(44)と竹森巧さん(43)が原爆をテーマにした漫才を作り上げた。昨夏、長崎市の被爆2世団体から依頼を受けたのがきっかけ。重くて暗いテーマでも笑いと音楽を通じて考える機会を提供したいと、被爆医師の故・永井隆博士の著作を基にした2人芝居や、平和への希望を込めたオリジナルの歌を織り交ぜる。原爆や戦争の惨禍を知らない世代が、被爆者らの体験や願いに思いをはせる「入り口」になれば-。8月に控える被爆地長崎での初公演に向け、練習に打ち込んでいる。
 2人は北海道出身で、1996年にコンビを結成。東京の劇場でコントや漫才を披露する他、竹森さんは楽曲制作や演奏、阿部さんは演劇舞台への出演など、幅広く活動している。
 近年は「ただ笑わせるだけでいいのか」との思いで表現方法を模索し、歴史を伝える2人芝居にも取り組んでいる。2018年に北海道のアイヌ民族、19年には鹿児島・知覧の特攻隊を題材にした音楽劇を制作。全国で公演してきた。
 こうした活動を、長崎市などの被爆2世らでつくる「長崎被災協・被爆二世の会・長崎」の山崎和幸会長(68)が知り、2人に原爆を扱った作品制作を提案した。2人は永井博士が晩年を過ごした「如己堂」や長崎原爆資料館を訪問、被爆者らへの聞き取り、取材を重ね、先月までに台本が完成。芝居では2人が永井博士や被爆者を演じ、被爆の実相や原爆が人々の心に残した傷などを表現する。
 初公演は同会が8月11日に主催し、昼夜2回公演を予定。来月からチケット販売を始める。山崎会長は「2人は悩みながら作品を作ってくれた。この長崎から、新しい形で原爆や平和を発信する手段になれば」と期待を寄せる。

◎笑いと音楽は想像の入り口 故永井博士の著作など取材

 長崎にゆかりのない自分たちが、扱ってもいいのか-。北海道出身のお笑いコンビ「アップダウン」は原爆を題材に芝居や歌を交えた漫才を作りながら、そんな葛藤に直面した。一方で被爆者の高齢化は進み、体験をどう後世に伝えるかは喫緊の課題。長崎や広島だけが考える問題でもない。だからこそ、8月の初公演を前に思う。「原爆の話に“触れにくい”と感じる人は全国に多い。芸人だからこそ『笑い』を通じ、その認識を変えられるのでは」
 20日、阿部さんと竹森がオンライン取材に応じた。

特攻隊をテーマにした音楽劇「桜の下で君と」で、特攻隊員を演じる(右から)阿部さんと竹森さん(アップダウン提供)

 歴史を伝える芝居に取り組んできた2人にとって、笑いと音楽は厳しい時代を想像するための「入り口」だ。特攻隊を描いた音楽劇「桜の下で君と」。元特攻隊員への取材で、隊員の日常生活には和やかな笑いもあったと知り、劇に組み込んだ。観劇した学生から届いたのは「教科書と違ってリアルに想像できた」との感想文。「祖父母に体験を聞いてみるとか、一歩を踏み出すきっかけになると思った」と阿部さんは語る。
 昨夏、特攻隊の劇を全国公演中に長崎を訪れた際、被爆2世に頼まれた。「被爆者が減る中、2世など伝え聞いた人が語り継がないと。新しい伝え方を、一緒に作ってくれませんか」。2人は被爆体験や、被爆医師の故・永井隆博士の著作などを取材。原爆の惨禍に加え、被爆者が受けた差別は「心のひび」として一生残ると知り、新型コロナウイルス禍が差別を生む現代にも通じるメッセージを発信できると感じたという。

 漫才は学校の平和教育で演じられるよう、30分余りの構成。初公演後は全国で上演する考えで、各地の戦争体験も取材し盛り込んでいくという。阿部さんは「最初は楽しんで見てもらい、終わるころには歴史を知り、戦争や平和を自分なりに考えてほしい」。竹森さんは「みんなが自分の問題だと考え、当時を想像できるような漫才にしていきたい」と語る。

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