<いまを生きる 長崎のコロナ禍>「陽性でも支える」覚悟と葛藤 コロナ禍の訪問介護 感染の恐怖と戦う

 「感染するかも」「もし私が感染させたら」-。新型コロナウイルスの渦中、高齢者や障害者の訪問介護を担うホームヘルパーらは日々こうした葛藤を抱えながら生活を支えている。「たとえ利用者が陽性になっても」。そう覚悟を決めている人もいる。
 3日午前、長崎市南部。1人暮らしの濱口ツナさん(91)宅を訪ねた60代女性ヘルパーは、手指消毒を済ませると「きょうはどこを掃除しましょうか」と話し掛けた。不織布のマスクをつけたまま黙々と床を雑巾がけし、風呂を磨いた。汗ばむが、感染拡大時期にはアームカバーやフェースシールドも付けていた。
 濱口さんは病気のため83歳で脚を切断、翌年にもう片方を失った。「基礎疾患もあるから感染は怖い」からと、県外の親戚が訪れた際には玄関までで帰ってもらったこともあるという。それでも「ヘルパーさんたちのことは信頼しとるけんね」と笑った。
 同じ日の午後、同市南東部の平川静枝さん(84)宅では、女性ヘルパー(42)が手際良く夕食を準備。30分ほどでおいしそうな香りが漂った。献立は豚汁やイカの煮付けだ。

暑くても感染防止のためマスクを着用して掃除するホームヘルパー(上)、手際良く利用者の食事を作るホームヘルパー=長崎市

 「もし利用者が陽性になったらどうする」と記者が尋ねると、ヘルパーは「うーん」と一瞬手を止めて答えた。「多分、いつものように訪問するでしょうね」。ただ、小学生の息子を育てる身として葛藤も口にした。「自分が感染しても仕方がないけれど、学校に迷惑がかかるし、いじめられるかもしれない。でもやっぱり、お年寄りを放ってはおけない」
 ヘルパー派遣元の健友会ヘルパーステーション(長崎市大浦町)によると、国の緊急事態宣言が出ていた昨春は、感染を警戒する利用者やその家族から「しばらく来ないで」と求められることもあった。
 着替えや入浴、排せつなど身体接触を伴うサポートもあるので、感染予防には神経を使う。所属ヘルパーらは旅行や外食、不要不急の買い物などを自粛してきた。同施設のサービス提供責任者、滝川奈津美さんが現場の声を代弁する。「私たちが感染源になる可能性はゼロではない。利用者は高齢で基礎疾患がある人が多い。だから『感染しない、させない』という思いで辛抱している」
 5月の大型連休明けに感染が急拡大し、長崎市を中心にした長崎医療圏の病床はほぼ埋まった。医療関係者は「入院して治療を受けるべき感染者が自宅で療養したり、待機したりせざるを得ない状況が迫っている」と懸念した。それは訪問介護の従事者たちに覚悟を迫るものだった。
 施設介護の従事者に対するワクチン接種は、クラスター(感染者集団)防止のため、県内複数の市町が優先的に進めている。国は訪問介護も同様の扱いが可能としているが、まだ具体的な動きはみられない。滝川さんは「安心して利用してもらうため、そしてヘルパーやその家族を守るためにも早い接種が必要」と訴える。

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