小佐々町唯一の歯科、楠泊歯科診療所閉院 地域と歩んだ感謝の40年 院長を務めた朝村晴美さん(74)

「患者様と従業員に感謝しかありません」と話す朝村さん=佐世保市小佐々町

 長崎県佐世保市小佐々町の唯一の歯科、楠泊歯科診療所が今年1月末、多くの利用者に惜しまれながら閉院した。約40年にわたり院長を務めた朝村晴美さん(74)は「患者様や従業員、地域の人の温かさに助けられ、ここまで続けることができた」と穏やかに語った。
 小佐々町郷土誌によると、同町は1965年ごろ歯科医が不在に。そのため町が他県や遠くは台湾から歯科医を招いていたという。77年、兄が経営する佐世保市内の歯科医院で働いていた朝村さんにも声が掛かった。週に数回診療に通うようになり、翌年には学校歯科医も担った。町民の要望を受けて80年に院長になった。
 漁師が多い地域柄。「漁師さんは一度海に出たらすぐには帰って来られないから」と、「歯が痛い」と言われれば予約が無くても対応した。子どもには、怖がらせないように治療内容を丁寧に説明するなど工夫していた。
 2005年からは妻の涼子さん(71)も、受け付けとして勤めるようになり夫婦二人で通勤。涼子さんは、四季折々の花を飾ったり、従業員と共に夏は冷たいお茶を、冬には温めたタオルを患者に渡したりするなど、細やかな心配りをして患者らの心を和らげた。
 待合室は、学校帰りに治療に来る子どもや一緒についてきた友達、地域の大人たちが憩う場に。同町の松井国紀さん(52)は親と自身、そして3人の子、3世代にわたって同診療所に「お世話になった」という。松井さんは「子どもはよく奥さんに宿題を見てもらった。一人が行くと言えば他もついて行くと言うほど先生や奥さんに懐いていた」と閉院を惜しんだ。
 体力がなくなり1年前から、診療時間を2時間短縮するように。さらに手元の不安もでてきたため、「かえって迷惑を掛ける」と半年前に閉院を決意した。同町に新たな歯科医が開院する予定も今のところ無いそうだ。
 涼子さんは「ここまで続けることができて、幸せしかない」と感謝。朝村さんは「楠泊は第2の故郷。名残惜しいけれども、今後は妻とゆっくり余生を楽しみたい」と話す。地域の人に親しまれた場所が、また一つ静かに姿を消した。

閉院した楠泊歯科診療所。現在は取り壊されている=佐世保市小佐々町(2021年2月、小佐々地区コミュニティセンター提供)

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