フルートの音で古里へ恩返し 被災した長崎大生 感謝の思い胸に音楽教諭目指す 熊本地震5年 長崎から

熊本地震の後、仮設住宅や高齢者施設でフルートを演奏した久保さん=長崎市、長崎大文教キャンパス

 長崎大教育学部4年の久保明日香さん(21)は2016年4月、熊本市東区で被災した。高校2年だった。地震で混乱する中、食料の搬送やがれきの撤去などボランティアのありがたさが身に染みた。「自分も助けられたし誰かがやらないと」。高校の音楽専攻の仲間と仮設住宅や高齢者施設などを巡り、歌声とフルートの音色を届けた。「音楽は演奏する方も聞く方も勇気づけられる」。被災後の気持ちを胸に秘め、音楽の先生を目指して勉強に励んでいる。
 母がピアノを教えていた影響もあり、幼いころから音楽に親しんできた。中学1年の時に部活でフルートを始め、音大でレッスンもある熊本県立御船高(御船町)に進学してフルートで音楽を専攻した。
 16年4月14日夜、学校から帰宅した直後に前震が襲った。自宅は11階建てマンションの8階。家族5人で7人乗りの車に避難して夜明けを待った。翌朝、自宅に戻り、長崎市に単身赴任する父が心配して車で食料を積んで帰ってきた。
 16日未明、本震の激しい揺れで目が覚めた。暗闇の中、引き出しや冷蔵庫の中身は飛び出し、食器はほとんど割れた。マンションは半壊し、安全に住めると分かるまで鹿児島県の祖母の家に避難。その間、被害が大きい熊本県益城町で家屋の片付けのボランティアも経験した。
 約1カ月後、高校の授業が再開した。仮設住宅に移った友人も複数いたが「みんな生きててよかった」と喜び合った。しかし、続く余震におびえながら、同級生らの精神的なダメージも徐々に表面化した。ストレスを募らせ、悲観的になることもあった。

避難先の鹿児島から久保さんがボランティアで訪れた熊本県益城町。民家が倒壊していた=2016年4月18日(久保さん提供)

 そんな中、音楽専攻のメンバーで復興支援の演奏に出掛けることになった。久保さん自身は心に余裕がなく「乗り気じゃなかった」が、1回目の演奏で訪れた高齢者施設で、とてもうれしそうな笑顔で高齢女性に感謝を伝えられ、「やってよかった」と思った。その後も数カ月に1回、病院や仮設住宅などに演奏に出掛けた。
 大学生になって長崎に来てからも、1年時は月2回ほど熊本でボランティアに参加。被災した家の片付けをしたり、仮設住宅の高齢者や子どもたちを訪ねたりした。
 熊本地震を経験して、必需品をまとめたバッグを近くに置いて寝ることが習慣になった。周辺に落ちそうなものがないか確認する癖も付いている。
 中学のときに受けた音楽の授業が楽しくて、中学の音楽の先生になる夢を抱いてきた。昨年度、長崎と熊本で教育実習をした。「音楽って楽しいと伝えたい」。先生になりたい気持ちと復興に向かう古里熊本で働きたいという思いが、夢に向けての原動力となっている。


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