【混迷の石木ダム】インタビュー 朝長則男 佐世保市長 渇水の苦しみ 二度と

朝長則男 佐世保市長

 -なぜ石木ダムが必要なのか。

 戦前から佐世保は、旧日本海軍が造ったダムに頼りながら発展した。戦後は米軍や自衛隊の基地ができ、造船で工業化も進んだ。急激に人口が増える中、十分な水を確保できない状態が続いていた。そうした中、1994年に大渇水が起きた。給水制限が264日間(8月1日~95年4月26日)に及び、48時間のうち5時間しか水が出ない過酷な状況もあった。当時を知る市民は減ったが、あの苦しみは二度と経験させたくない。備えとして、石木ダムで必要最小限の水を確保したい。

 -反対する住民らと真剣に向き合ってきたか。

 市長就任直後の2007年5月から毎月現地へ出向き、(反対する)13世帯を戸別訪問するなどしてお願いを続けた。当初は耳を傾けてくれる住民もいたが、09年に事業認定を申請してから態度が厳しくなった。何度も怒鳴られたりして、警察を含め周囲から「危ない」と注意を促された。以来、訪問を控えているが、(住民を説得したい)気持ちは変わらない。

 -知事は昨年9月に反対住民と面談した。市長はしばらく対面していない。

 県に対応を任せており、知事から同席を求められればいつでも出向く。ただ、(反対派との)行政訴訟も続いており、今は議論をするタイミングではないとも感じている。

 -事業への理解が深まらない要因は。

 反対する住民には理解してもらえないが、佐世保市民と川棚町民の大半は事業の必要性を理解している。(反対する)市民団体は、住民への同情や、ダム自体を認めたくないという考えもあるのかもしれない。(理解の程度を)ひとくくりには言えない。

 -人口減少社会の中で、佐世保市の水需要予測は「過大」との指摘もある。

 私たちは国の指針に基づいて予測し、国から事業の補助金をもらっている。国に認められた予測であり、市が独断で決めていない。

 -代替策はないのか。

 コストを無視し、いくらでも公金を使えるのであればあるのかもしれない。ただ、海水淡水化装置にしても漁業者との調整など多くの課題が出てくる。さまざまな可能性を調査した上で石木ダムが最適という結果が出た。漏水対策や再生水の活用などの取り組みも続けているが、まとまった水量を確保できるダムの代替策としては「現実論」にならない。私から建設の中止を言い出すことはない。

 -県は、家屋などを強制的に撤去する行政代執行も選択肢の一つとする。行政代執行を認めるか。

 総合的な要素の中で知事が最終的に判断すること。現段階で私が言及することはないが、これまでの知事の発言は支持する。

 -市は行政代執行を知事に請求できる。任期中に請求する考えはあるか。

 市民や議会から「知事に言うべき」と求められれば、知事に相談するかもしれない。ただ、今はそこまでの状況とは考えていない。


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