貴重な「赤米」の種もみ収穫 長崎県対馬

台風に遭い倒れながらも、実を結んだ赤米の稲を手にする山下さん=対馬市、赤米神田

 稲作伝来の地とされる長崎県対馬市厳原町豆酘(つつ)地区で19日、古代米「赤米(あかごめ)」の稲刈りがあった。赤米の種もみが詰まった米俵をご神体として祭る「赤米神事」(国選択無形民俗文化財)を唯一継承している同地区の主藤(すとう)公敏さん(70)が昨年から急病のため療養していることから、主藤さんの親族や地元の豆酘小児童ら約40人が力を合わせ、貴重な種もみを収穫した。
 豆酘地区では千年以上前から赤米を栽培しているとされる。赤米は品種改良されていないため背丈が高くて細く、風で倒れやすい。今年は開花直後の9月上旬、台風が襲い約5アールの赤米神田では多くの稲が倒れて水に漬かってしまった。
 赤米神事は「頭仲間(とうなかま)」と呼ばれる住民で神事を続けていたが、農業離れなどで2007年からは主藤さんだけが継承。主藤さんは昨年の稲刈り後の10月22日に脳出血で倒れ、一時意識不明の状態だったが、現在は会話や支え歩きができるまで回復し、自宅療養している。
 稲刈りは手作業で稲を起こしながら行い、豆酘小児童は「神様のお米だから大切にしなくちゃ」と落ち穂も拾って丁寧に束ねていた。主藤さんの三男、陽介さん(41)はその様子を見て「手伝ってくれてありがたい。豆酘の思い出としていつか思い返してもらえたら」と話した。
 親族で6月に今年の田植え準備を担った山下成久(しげひさ)さん(71)は収穫した稲を手に「種もみは例年より少ない50~70キロで1俵か1俵半ほどだろう。台風の影響はあったが、よく実ってくれた」とつぶやいた。

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