『おさげのアイちゃん』 野原滿子さん えぷろん平和特集2020 #あちこちのすずさん

 母アイ子は戦時中、長崎市にあった県防空学校で、両親と共に職員として働いていました。若き青年ばかりの中に、紅一点のアイドルでした。
 戦争が激しくなってくると、学校で学ぶ若者にも突然、出征命令が下りました。若者たちは、見送るアイちゃんのおさげ髪を両手でしっかり握ってから出発しました。「僕らが守ってやるよ」と。女性の黒髪を触るのは最初で最後だったでしょう。あまりに悲しい青春です。
 学校では永井隆先生の授業もありました。17歳になったアイちゃんは、親が決めた結婚をすることになりました。心配した永井先生は「先生が親御さんに話して断ってもらおうか」。アイちゃんは「この前教会でチラッとその人を見ました。横顔の寂しそうな人でした。でも私を5年間も見守っていてくれたそうです。一緒に苦労をしたいと思います」と伝えました。
 2年後、あの忌まわしい原爆。三ツ山で永井先生と再会したアイちゃんは、生後半年の私を連れていました。「この子がアイちゃんの子か。かわいかね。大事に育てなさい」-。先生は痛々しく傷ついていましたが、優しいまなざしは昔のままだったそうです。
(長崎市・無職・75歳)


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