75回目「長崎原爆の日」 核使用の脅威に危機感 核禁条約への署名・批准を

平和祈念式典で「あの子」を歌う長崎市立山里小の児童たち=長崎市、平和公園(代表撮影)

 長崎は9日、被爆から75年の節目となる「原爆の日」を迎え、長崎市松山町の平和公園で長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が営まれた。田上富久市長は長崎平和宣言で、高性能の核兵器の開発が進んでいるなどとして、核兵器使用の脅威が現実のものになっていると危機感を表明。世界各国の指導者に核軍縮の道筋を示すよう求め、日本政府と国会議員に対しては未発効の核兵器禁止条約への署名・批准を強く促した。
 式典には遺族や被爆者、68カ国の駐日大使ら約500人が参列。新型コロナウイルス感染防止のため、昨年の約1割に制限した。午前11時2分に黙とうし、原爆死没者名簿に記した18万5982人の被爆者と「被爆体験者」を追悼した。

 田上市長は平和宣言の冒頭、原爆に妻子3人を奪われた被爆者の手記を引用し、原爆の惨状を訴えた。その上で、核保有国の間に核軍縮のための約束を反故(ほご)にする動きが強まっていると批判。核禁条約を巡っては、「核保有国や『核の傘』の下にいる国々の中には、条約をつくるのは早すぎるという声があるが、核軍縮があまりにも遅すぎる」と厳しい視線を向けた。被爆証言を続けてきた被爆者らに感謝の拍手を送り、世界が直面するコロナ禍を引き合いに、核廃絶にも当事者意識を持つよう、若い世代に呼び掛けた。
 被爆者代表の「平和への誓い」は、長崎市本尾町のカトリック信徒、深堀繁美さん(89)が務めた。昨年、訪問した被爆地長崎からローマ教皇フランシスコが発した核廃絶のメッセージに呼応し、「一人でも多くの皆さんがつながってくれることを願ってやみません」と訴えた。
 安倍晋三首相はあいさつで、核禁条約に触れず「非核三原則を堅持し、立場の異なる国々の橋渡しに努め、核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取り組みをリードする」と語った。
 安倍首相は式典後の記者会見で、核禁条約が掲げる核廃絶という目標は「共有している」としながらも、「安全保障の現実を踏まえていない」「わが国の考え方とアプローチが異なる」と述べ、反対の姿勢を改めて示した。


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