大崎 チームの完成度高く 前を向いた意義深い夏 長崎県高校野球大会 総評

夏の大会初優勝を飾り、閉会式後に行進する大崎の選手たち=長崎市、県営ビッグNスタジアム

 長崎県高校野球大会は2日、昨秋に続いて大崎が優勝を飾って幕を閉じた。コロナ禍で中止になった甲子園予選の代替大会で、頂点に立っても夢舞台には行けない前例のない夏。昨年、一昨年覇者の海星、創成館が早々に敗退するなど波乱もある中、大崎は練習試合を含めて今季県内負けなしの偉業を成し遂げた。公立校が躍進し、8強を離島や進学校を含む7校が占めた大会を総括する。

 素早いテンポで

 大崎はチームとしての完成度が高く、全6試合計51回の中で一度もリードを許さなかった。防御率0.21を誇ったエース田中を筆頭に、攻守とも抜群の安定感だった。バッテリーの素早いサイン交換、ストライク先行の投球テンポは「試合が進むのが速い」とされる全国での戦いを見据えた、お手本とも言えるだろう。
 打線も切れ目がなく、決勝は送りバント後の適時打で全得点を挙げる勝負強さを披露。出塁すれば、けん制された際にぎりぎり戻れるか戻れないかという大きなリードを取り、相手に打者だけではなく走者も意識させて重圧をかけた。ロースコアの接戦も続いたが、無得点でも時間を費やし、簡単に終わらない攻撃で流れを渡さなかった。
 準優勝の鹿町工は2回戦で逆転サヨナラ、3回戦で延長を制するなど終盤の粘りは見事だった。夏の4強以上は初めて。準決勝も七回の2点スクイズで試合をひっくり返した。右腕中村、ゲームキャプテン山下を中心とした力、技術だけではなく、ひときわ響いた掛け声や全力疾走を貫いたベンチワークも心に残り、はつらつとした姿は目を見張るものがあった。

 「勝てる」を体現

 4強は長崎南山と波佐見。長崎南山は大会屈指の投手力を見せつけた。全5試合の失点は準決勝の2点だけ。エース磯木をはじめ、江口、中村、南亮の異なるタイプが躍動した。逆に波佐見は全試合2桁安打の打力を発揮。近年、全国的に評される「打たなければ勝てない」を体現し、点を取られても取り返した。
 8強も印象的だった。長崎商は大崎に0-1でサヨナラ負け。一ノ瀬、相川のバッテリーを軸にした紙一重の勝負は見応えがあった。壱岐は球速140キロ超の高田が好投。初戦から相次いで実力校を倒して「島でも勝てる」ことを示した。
 島原は2年生左腕吉田圭が内角を突き続けた。「こだわりの一球」は随所でピンチを救った。進学校の長崎西は3人だけの3年生が引っ張り、2回戦で創成館を撃破。1失点完投の山下堅らの奮闘は、有力選手が残る新チームへ刺激を与えた。

 当たり前に感謝

 県内で新型コロナの感染者が増え続けた中、入場制限や体調管理、消毒などの対策を取り、約3週間の日程を無事に終えた。大声が禁止されたスタンドの保護者の中には「叫びたいけど…」とぐっと我慢して息子のラストプレーを見守った母親がいた。大会中、何度も聞いた「当たり前だったことが当たり前じゃない」ことを痛感した。
 5月20日に甲子園中止が決まった。それから約2カ月半、選手が、特に3年生が経験した悔しさと試練は想像を絶する。それでも前を向き続けた今大会。いつの日か振り返ったとき、少しでも人生の糧になることを、関わったすべての大人が願っているはずだ。
 3日からは早くも各地区新人大会が始まった。先輩たちと同様に、1、2年生の球児も、さまざまな思いをため込み、この意義深い夏を経験した。来年の甲子園に向けて互いに競い、ともに飛躍していくことを期待してやまない。

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