継承活動 徐々に再開 全面再開へ3密対策の検討急ぐ

再開した「家族・交流証言者」の定期講話。参加者同士の距離を取るなどの対策が取られた=長崎市、長崎原爆資料館

 新型コロナウイルスの影響で休止していた被爆地長崎での継承活動が、被爆75年の節目を前に、感染防止策を講じながら徐々に再開している。11日には被爆の実相を語り継ぐ「家族・交流証言者」の定期講話が再開し、約20人が参加した。一方で、長崎原爆資料館の常駐ガイドの活動は中断したまま。関係者は全面再開を目指し、「3密」(密閉、密集、密接)対策の検討を急いでいる。
 「清野さんの体験が戦争や平和、家族のことを考えるきっかけになれば」。同日の同資料館。この日が「家族・交流証言者」活動のデビューとなった石田久美さん(57)が、8歳の時に入市被爆した清野定廣さん(83)の体験を市民らに涙ながらに語った。
 被爆者が高齢化する中、長崎市は2014年度、被爆者の親族らが「家族証言者」として体験を語り継ぐ事業を開始。16年度からは親族以外の人も「交流証言者」として活動に加わる。業務委託を受けた公益財団法人長崎平和推進協会が県内外に証言者を派遣したり、同資料館で月2回定期講話を実施したりしているが、新型コロナで3月以降、中断。同日が本年度初めての定期講話となった。
 再開に当たっては、全員にマスク着用を求めたほか、間隔を空けて座るなど感染防止に細心の注意。デビューの講話を終えた石田さんは「自分に足りない部分を補い、力を付けていきたい」と意気込んだ。
 一方、同じく同協会が育成する「平和案内人」については1日、屋外での碑巡りガイド活動が再開したものの、同資料館の常駐ガイド活動は休止が続く。18年度、国内外の1万629人が利用するなど需要は高いが、館内だけに3密につながる可能性があるとして、7月以降の再開を目指し対策の検討を急いでいる。
 9日には、常駐ガイドの平和案内人が試験的にフェースガードとマスクを着用し、1時間程度、同協会職員を相手に館内を模擬案内したが、時折フェースガードやマスクを外すしぐさが目立った。平和案内人の黒板美由紀さん(69)は「最初は大丈夫と思ったが、話しているとだんだん息苦しさを感じた」。同協会はフェースガードを着けてのガイドは困難と判断。今後は、大声を出さずに済むよう、マイクやレシーバーなどの使用や参加者同士の距離を取ることなどを検討していくという。
 語り部の被爆者派遣も8月から再開を予定。同協会の高比良則安事務局長は「原爆のことを学びに来てくれる人たちのためにも、感染対策に万全を期してできる限り早く再開したい」としている。

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