「より被爆の実相を」 長崎平和宣言 市が起草委員会に原案

 長崎市は6日、被爆75年となる今年8月9日の平和祈念式典で、田上富久市長が読み上げる平和宣言文の起草委員会を市内で開き、原案を示した。核軍縮が進まない現状は新型コロナウイルスと同様、全世界が直面する危機だと指摘。昨年のローマ教皇の被爆地訪問に言及しながら、核なき世界に向けた連帯、行動を呼び掛けている。委員からは被爆者の詩を引用した昨年の宣言文を引き合いに、「被爆の実相も盛り込み、核兵器の非人道性を強く訴えていくべきだ」との意見が上がった。
 被爆2世として被爆体験の継承活動に携わっている「長崎被災協・被爆二世の会・長崎」の佐藤直子会長(56)は、コロナ禍で活動の中止や延期が相次いでいる現状を紹介。「多くの人が制約のある(コロナ禍の)生活を経験し、日常や平和の大切さを感じた。そこに訴えるような文言にしてほしい」と要望した。
 一方、被爆者からは生々しい惨状が原案に盛り込まれていないなどとして、不満も相次いだ。長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の田中重光会長(79)は「よくまとまっているが心に響かない」と苦言。感情面にも訴える必要性を強調した。長崎原爆遺族会顧問の下平作江さん(85)も「人間らしく死ぬこともできなかった戦争の愚かさを伝えるべきだ」と求めた。
 原案では若い世代の行動も促している。この点について、活水中・高の草野十四朗非常勤講師(65)は、「(若い世代への)期待だけを語るのではなく、大人たちが何をなすべきか責任を考えることも大事」と提案した。
 田上市長は終了後、原案への指摘に対し「やはり被爆の惨状を話すことは大事。75年たっても伝わっていない核兵器の怖さを訴えていく」と述べた。
 起草委は市長や被爆者ら15人で構成。最終回の次回は7月4日に開き、市側が修正案を提示する。同月中に内容を固める見通し。

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