<備えはいま 普賢岳大火砕流から29年・中> 登山客の“安全”実現を

仁田峠展望所階下の退避スペースから平成新山を指さす本多事業部長=雲仙市小浜町雲仙

 雲仙・普賢岳が再び噴火し周囲に噴石が降り注いだ場合、登山客の安全をどう確保するのか-。
 「私たちが避難誘導するしかない」。雲仙ロープウェイの本多浩二事業部長(51)は、仁田峠展望所(雲仙市小浜町雲仙)の階下にある退避スペースから、普賢岳の噴火活動で形成された平成新山(溶岩ドーム)を見つめ、自身に言い聞かせる。
 同社のロープウエー駅舎2カ所(同展望所と妙見岳)と、展望所駐車場にある仁田峠インフォメーションセンター(いずれも平成新山から2キロ圏内)は、噴火発生に備えて、雲仙市が指定する避難促進施設。展望所を起点とする登山道(妙見岳、国見岳、普賢岳を巡るコース)では、自然の風穴と岩陰の計4カ所(いずれも1キロ圏内)が退避場所になっている。
 登山者を噴石が襲った事案は、2014年の御嶽山(長野、岐阜両県)噴火災害が記憶に新しい。九州大地震火山観測研究センター(島原市)の松島健准教授(60)によると、普賢岳は溶岩ドームが豪雨や地震で崩壊する危険性があるものの、噴火の兆候はないという。ただし、地下水がマグマ熱で地上に噴き出す水蒸気爆発は「いつ起こるかは分からず、今の研究では予測は難しい」とし、噴石への警戒を怠らないよう促している。
 御嶽山の噴火を教訓に、県や島原半島3市、環境省などでつくる雲仙岳火山防災協議会は、登山道防災マップを作成、登山コース上など6カ所に案内板も設置済み。加えて、17年からは登山者の退避先としてシェルターを設置できないか検討したが、今年2月に計画は白紙になった。平成新山から0.5キロ圏内で開けた場所にある立岩の峰に設置する方向で議論を進めたものの、ヘリコプターでの資材運搬に約1600万円の費用を要し、基礎工事も技術的に困難だったからだ。
 ハード面の充実は実現しなかったが「他にもやるべきことはある」。野外活動経験が豊富な環境省雲仙自然保護官事務所の服部恭也自然保護官(32)は、「避難誘導する側の防災意識を高く保ち続けないと人命を守れない」と強調する。
 雲仙ロープウェイの本多事業部長も誘導の重要性を感じている一人。「有事に備えて常に山の変化に気を配っている。誘導手順の確認は行っているが、実地訓練は施設単独ではできず不安」と漏らす。雲仙市も避難誘導訓練の実施に積極的で、市独自の防災訓練に組み込むか、同協議会に協力を要請するなどして実現を目指す方針だ。


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