身長166センチ、体重85キロ。スピードやスキルも抜きんでているわけではない。そんな小柄なラガーマンが、誰にも負けない努力、体を張り続ける勇気、常に一歩先を考える力を武器に、長崎北陽台高の第40代主将を任された。「偉そうな言い方だけれど、本気でやれば誰でも自分ぐらいなれる」。大町尚生(おおまち・なおき)は練習中から常に先頭に立ってチームを引っ張っている。
3兄弟の次男。大村市の大村ラグビースクールで3人一緒に楕円(だえん)球を追い始めた。大村中卒業後は兄に続いて長崎北陽台高に進学。「勉強もラグビーもやるなら北陽台だと思った」。午前5時起床、大村駅6時発のJRで約1時間かけての通学、朝練習…。当然のように帰宅後の勉強、筋トレも欠かさなかった。
この積み重ねは生きてきた。昨冬まで2年連続で全国大会(花園)に出場。昨夏はU-17九州代表のフランカーとして活躍した。今年2月の九州新人大会も準々決勝で王者東福岡高に敗れたが、敗者戦を勝ち抜いて全国選抜大会出場権を獲得。「正直、手応えを感じた大会だった」。この大会で「ヒガシ」と終盤まで互角に戦えたチームは長崎北陽台高だけだった。
それだけに全国選抜大会の中止は残念だった。チームの持ち味であるディフェンス力を前面に出して、みんなで暴れようと思っていた。「でも、それは仕方がないこと」。今は気持ちを切り替え、また、努力の日々と向き合っている。
練習に臨む姿勢はとにかく厳しい。苦しくなってきたら走らない、同じミスを繰り返す…。そんな態度が見えたら、同級生であっても容赦なく叱責(しっせき)する。だからといって、敬遠されるような人柄ではない。昨夏、一緒に九州代表に選ばれたプロップ田中翔太朗は「分からないことは何でも教えてくれる。オンとオフもしっかりしていて、頭もいいけれど、みんなとばかになっても遊べる」と信頼を寄せている。
そんな仲間たちと一緒に目指しているのが「花園4強以上」。好選手がそろっていた昨季のチームが達成できなかった目標だ。「去年のようなタレントはいないけれど、今年は気持ちが強い。小さくても勝てるところを見せたい」。みんなで“やればできる”を体現すると心に決めている。
□ □ □
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全国選抜大会の中止をはじめ、部活動停止まで余儀なくされてきた今年の高校アスリート。先の見通しが立たない中、全国で戦える日が来ることを信じて、自らを鍛え続ける各校の3年生エースたちの姿を追った。