退職自衛官の佐世保市内再就職 官民一体の支援強化が奏功 定住人口増、人手不足解消に効果

現場で従業員と話をする徳重さん(右)=佐世保市、東洋トラスト特機

 佐世保市内の企業に再就職する退職自衛官が増えている。陸海の自衛隊施設がある特性を生かそうと、2015年から官民一体となって支援を強化。民間のビジネスマナーなどに戸惑いも残るが、定住人口の増加、企業の人手不足解消の手段として着目されている。

 市基地政策局によると、自衛官は53~56歳で定年を迎える。14年度に市内で退職した陸海自衛官(一部空自も含む)は170人。このうち市内で就職したのは85人(50%)だった。
 市は15年に策定した「市まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、この割合を70%に引き上げる目標を掲げた。16年には自衛隊と市、経済界が「佐世保市退職自衛官再就職促進等連絡会議」を設置。情報発信や企業説明会、資格取得の支援など、再就職につなげる環境づくりを進めた。
 こうした取り組みもあり市内就職者は16年度83人(50%)、17年度92人(54.4%)、18年度118人(55.1%)と増加。サービス業や製造業などに就職しているという。目標の70%には届いていないものの、実数は着実に伸びている。現行の総合戦略は19年度で終わるが、市は20年度以降も継続して取り組む方針。
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 自衛隊や米軍艦船のメンテナンスなどを手掛ける東洋トラスト特機(小佐々町)は、全社員50人のうち、11人が退職自衛官だ。
 19年に入社した工事技術部課長の徳重博樹さん(54)は、海自の護衛艦で機関長を務めていた。「40代で再就職の教育を受けたが、目先の仕事が忙しかった。辞めた後のイメージはなかった」と明かす。機材の点検作業などで経験を生かせているという。
 17年入社の元陸自、野村泰郎さん(56)は同社の迫田澄博取締役会長(68)から「自分に合うかどうか、会社を見て判断して」と促されて見学したことがきっかけで就職した。北海道勤務が長く、不安もあったが、仕事への理解も深まったことが決め手になった。
 一方で、民間企業との“文化の違い”に戸惑う退職自衛官は多い。元海自で18年に入社した田中雄介さん(55)は「電話応対や名刺交換といったビジネスマナーは慣れるのが大変。見よう見まねだった」と振り返る。品質管理責任者を務める野村さんは、従業員を指導することも。「自衛隊なら『右向け右』で全員右を向いた。民間ではそうはいかない。業務を回すことは難しく、奥深さを感じる」と語った。
 自らも元海上自衛官の迫田会長は「環境の変化に合わせる力が大切と伝えている」という。その上で「自衛隊での経験は財産で『プライドまでは失うな』とも伝える。できることなら、これまでその人が培った精神も一緒に受け入れ、退職自衛官を認める地域になってもらえたら、うれしい」と話した。
 連絡会議は今後、任期制の自衛官を含め若年層への働き掛けも図る。メンバーで、市内の企業でつくる佐世保防衛経済クラブの馬郡謙一会長は「定年が65歳になれば、10年は働ける。各企業が人材不足の中、さまざまな特技を持つ自衛官の存在は大きいはずだ」と期待を語った。

退職自衛官の佐世保市内企業への再就職実績

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