麻生氏の発言

 麻生太郎副総理兼財務相は今月の国政報告会で、「2千年の長きにわたって一つの言葉、一つの民族、一つの王朝が続いているなんていう国はここしかない」と述べたという▲北海道のアイヌを先住民族と位置付けた法律との矛盾を指摘された麻生氏は、すぐに「日本は比較的まとまった形で2千年近くの間、継続してきた」と訂正した。だが、それでもやはり配慮を欠いていないか▲松前藩を除く北海道の大部分が日本の直轄地となったのは明治維新以降のこと。沖縄では15世紀、本土とは別の琉球という王国が成立し、明治初期の「琉球処分」まで続いた▲日本という国がほぼ現在の領域となったのは、明治以降の150年程度に過ぎない。麻生氏が「2千年近くの間」「比較的まとまった形」と言い換えたとしても、そこからは北海道と沖縄が抜け落ちていることにならないか▲北海道や沖縄では、本土とは異なる独自の言語、歴史、文化が育まれてきた。それらを日本の多様性の表れとして尊重する意識が麻生氏にあるならば、一連の発言が出てくるはずがない▲麻生氏に見えている日本の姿は、現実よりずいぶん単純化、均一化されたもののようだ。政権中枢にいる人物だけに、日本の隅々までちゃんと目配りできているのかどうか、どうも気に掛かるのだが。(泉)

 


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