被爆者の声 事実伝える 原爆テーマ「ナガサキ」の著者・サザードさん講演 青来さんらと意見交換も

被爆体験の継承などについて意見を交わす(左から)サザードさん、ビナードさん、青来さん=長崎市平野町、長崎原爆資料館ホール

 被爆者の証言や公文書資料を基に、長崎原爆の実像に迫った書籍「ナガサキ」の著者、スーザン・サザードさん(63)が10日、長崎市内であった市民セミナーで講演した。米国では原爆を正当化する考えが浸透し、被爆の被害が理解されていない状況に触れ「被爆者の声が事実を伝えている。私たちには被爆者の声を記憶にとどめ続ける責任がある」と主張した。
 サザードさんは、世界の多くの場所では「原爆は昔の抽象的な出来事」と捉えられていることを指摘。特に米国では多くの市民が「原爆を使ったことで多くの米国人が救われた。投下は正しかった」という政府見解を信じており、「原爆の被害、被爆者が背負う苦しみは知られていない」と述べた。
 その上で「被爆者の体験は政府見解の裏にある事実を伝えており、国や世代の違いを超えて伝わる意義がある」と強調。「原爆を正当化する人の考えを変えるのは容易ではないが、被爆者の話は偏見を和らげ、聞き手に染み入る説得力がある」と期待を寄せた。
 セミナーでは、米国出身の詩人で絵本作家のアーサー・ビナードさん、作家の青来有一さんを交えたトークセッションもあり、それぞれが被爆体験の継承について言及。サザードさんは「自国の戦争加害に直面したくないという心理が、被爆者の体験を理解しようという行動を邪魔している」として、「それぞれが自国の加害、他国の被害について理解しようとする姿勢が大切」と呼び掛けた。
 青来さんは「被爆者の体験を語り継ぐのではなく、事実を検証し、被爆者の思いを共有することが大切になる」と主張した。ビナードさんは「どう語り継ぐかを考える時期はとうに過ぎており、いまだに先人に寄り掛かっていることが問題」と言及。「被爆者の証言を再生するのでなく、証言を客観視しながら語ることはできる」と語った。
 セミナーは「ナガサキ」の日本語版が7月に出版されたのを記念し、核兵器廃絶長崎連絡協議会が主催。約200人が参加した。

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