勝山市場、最後の店じまい 中華料理店「萬両亭」 跡地にマンション

勝山市場で17年間営業し、今月で閉店する「萬両亭」と苑田さんら=長崎市勝山町

 六十数年前、路面電車の軌道敷だった長崎市勝山、桶屋両町の傾斜地に建てられた木造長屋の「勝山市場」。くしの歯が欠けるように店が閉じ、唯一営業を続けていた中華料理店が今月いっぱいで、のれんを下ろす。跡地にはマンションが計画され、店主は「時代の流れ」と受け止める。
 足を踏み入れると、さびたトタンとシャッターに囲まれた薄暗い空間があった。吹き抜けで2階の窓も見える。なんとか人がすれ違える幅の路地がまっすぐに伸び、勾配をはっきりと感じる。看板は朽ち、雑然と積まれた家財道具がほこりを被っていた。
 市役所に近いこの場所にかつてあった路面電車の軌道は1954(昭和29)年3月、桜町の立体交差「桜橋」の開通に伴い廃止された。千可良精肉店の高野淳さん(60)によると、間もなく長崎電気軌道から跡地の分譲を受けた祖父らが「勝山食品モデル市場」を開いた。最盛期は野菜や魚、総菜など20店舗を超えた。「1階が店で、私は2階に住んでいた。県庁横から長崎署が近所に移ってきた68(昭和43)年ごろが一番にぎわった。組合主催の海水浴旅行もあった」と高野さんは懐かしむ。
 その後、大型スーパー進出や郊外への人口流出という波にさらされ、「青空市場(同市諏訪町)など各地にあった市場文化が消えていった」(高野さん)。勝山市場からも店が次々に退去し、千可良精肉店は6年前に銅座町へ移転した。
 中華料理店「萬両亭」は2002(平成14)年、同市中町からここに移ってきた。店主の苑田豊治さん(66)は「安くておいしい」が身上で、人気のマーボメンは620円。昼時は周辺の勤め人でにぎわう。
 シロアリに襲われ、梁(はり)を変えるなどして維持してきた。11年前、妻富美子さんに病気で先立たれてからは一人で切り盛りしてきた。4年ほど前から最後の1店となり、そこへマンション建設計画が持ち上がった。最近は長女の礼子さんが仕事の合間に手伝ってくれ、まだ数年は続けたかったが、他の地権者らも同意する中、やむなく立ち退きを受け入れた。
 「困る」「別の場所で続けて」「レシピを教えて」。そんな常連客の声を聞き、苑田さんは寂しげに笑う。「ありがたい。皆さんのおかげで食いっぱぐれずにやってこれた。でも、時代の流れには逆らえんよ」
 解体後にマンションを整備する福岡市の事業者によると、早ければ来年夏ごろ着工するという。

薄暗い勝山市場内。吹き抜けで2階の窓が見える=長崎市桶屋町

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