来る日も来る日も

 村の小学校に三郎という名の少年が転校してきた。彼の行く先々で風がどうと吹き、窓ガラスが鳴り、木々が揺れる。同級生らは不思議がって「風の神の子っ子だぞ」「二百十日(とおか)で来たのだな」とささやき合う▲宮沢賢治の「風の又三郎」は9月初めから12日までの物語で、「二百十日」とは立春から数えて210日目、9月1日ごろに当たる。「二百二十日(はつか)」と並んで台風にやられやすい時期とされ、古くから農家の厄日と呼ばれる▲来る日も来る日も厄日というほかなく、被災地の様子を知るにつけ胸が痛い。二百二十日の頃に首都圏を襲った台風15号の影響で、千葉県では家屋の損壊だけでなく、1週間以上も広域停電や断水が続いている▲きのうの時点で6万戸近くがまだ停電し、復旧までに何日もかかるという。台風の猛烈な風で倒れ、破損した電柱は2千本ほどもあり、復旧作業に手間取っている▲電灯がつかない。冷蔵庫が使えない。停電で基地局がダウンして携帯電話も使えず、情報が得られない、人と連絡がつかない。当たり前の生活が何日も途切れ、被災地は疲労の色を濃くしている▲二百二十日の災いはどこであろうと起こりうることで、人ごととは誰も言えない。「風の神の子っ子」がいるとしたら、連日の厄日がもう終わるよう乞うてみたい。(徹)

© 株式会社長崎新聞社