平和祈念マッチ 平和への願い 沖縄から

試合前、平和を願って黙とうをささげるV長崎の選手たち=沖縄県沖縄市、タピック県総ひやごんスタジアム

 試合前のスタジアムが静寂に包まれた。選手、サポーターたちは目を閉じ、74年前の8月に思いをはせる。
 1945年8月9日。長崎に投下された原爆は、7万人以上の尊い命を奪った。理不尽な暴力によって変わり果てた街と人。そこには絶望しかない。
 沖縄は先の地上戦で県民の4人に1人が犠牲になっていた。生き残った人も多くが米軍の収容所に入れられた。恐怖におびえる日々。終戦を告げる玉音放送すら満足に聞けなかった。
 あれから、長い年月が過ぎた。二つの都市は苦難を乗り越え、再び立ち上がった。核兵器や基地の問題に思うような進展はない。それでも、街に人に笑顔が戻り、心の底からスポーツを楽しめる日常がある。
 無心にボールを追いかける。気の合う仲間と声をからして応援する。そんな今の平穏は、多くの苦しみの上に成り立っている。だからこそ-。
 悲惨な過去を背負う地に生まれたクラブは、世の中に伝えていかなければならない。決して当たり前ではない日常にいる幸せを。平和への願いを。
 たとえ苦境に立たされようとも、ひた向きな姿で人々の希望にならなければいけない。スポーツの力を信じて。

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