74回目 長崎原爆の日 核禁批准訴え 首相応じず 政府方針“抑止力”強調

「母が原爆で爆死して、骨も見つかっていない」と語った男性(左)。原爆落下中心地碑に向かい手を合わせた=9日午前8時40分、長崎市松山町、爆心地公園

 長崎は9日、米国による原爆投下から74回目の「原爆の日」を迎え、長崎市松山町の平和公園で「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。田上富久市長や長崎の被爆者5団体は日本政府に対し、核兵器禁止条約への署名・批准を訴えたが、安倍晋三首相は式典後の記者会見で、条約は世界に「一層の分断をもたらしている」と述べ、改めて応じない考えを示した。
 核兵器の保有や使用を全面禁止する核禁止条約は2017年7月に国連で122カ国・地域が賛同し採択された。批准国・地域数は、条約発効に必要な50に対し、25にとどまっている。
 田上市長は宣言で、被爆者の原爆詩を引用して原爆の惨禍を紹介。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約失効に触れ「核兵器が使われる危険性が高まっている」と指摘し、核保有国に核拡散防止条約(NPT)に基づく核軍縮を求めた。
 市民社会にも「あきらめず、無関心にならず『平和の文化』を育て続けよう。核兵器はいらないと声を上げよう」と呼び掛けた。
 核禁止条約については政府に「唯一の戦争被爆国の責任として一刻も早く署名・批准を」と要求した。米国の「核の傘」からの脱却や、朝鮮半島を含む「北東アジア非核兵器地帯」創設の検討も要請した。
 被爆者代表の「平和への誓い」は、長崎市晴海台町の山脇佳朗さん(85)が務めた。「この場で安倍総理にお願いしたい」と呼び掛け、核兵器廃絶に向けた核保有国への働き掛けと、対米追従ではない毅然(きぜん)とした態度を示すよう訴えた。
 一方、安倍首相は式典あいさつで核禁止条約に触れず「核保有国と非保有国の橋渡しに努め、国際社会の取り組みを主導する決意だ」と従来の方針を示した。
 首相は式典後の会見で、日米同盟による抑止力の強化が重要だと強調。核禁止条約には「現実の安全保障を踏まえておらず、核兵器国は1カ国も署名していない」と反対した。政府方針について「被爆地の理解を得られるよう、国民の議論に真摯(しんし)に耳を傾け、誠意をもって取り組む」とした。
 式典には原爆犠牲者の遺族や被爆者、核保有国を含む66カ国の大使ら約5200人が参列した。原爆がさく裂した午前11時2分に黙とうをささげ、名簿登載分で18万2601人に上る原爆死没者を追悼した。

2019年 長崎平和宣言(骨子)

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