【平成の長崎】 グループホーム火災5人死亡 防火基準、強化へ加速 平成25(2013)年

 がらんとした部屋に残るカレンダーは「2月」で時を止めていた。ここを“ついのすみか”として暮らしていた90歳の女性は、もうこの世にいない。
 2月8日午後7時半ごろ、長崎市のオランダ坂に面した認知症高齢者グループホーム「ベルハウス東山手」から出火、2階の2部屋など51.5平方メートルを焼いた。77歳から90歳の入所者など女性5人が一酸化炭素中毒などで死亡、7人が重軽傷を負った。2階中央付近の部屋にあったTDK製のリコール対象加湿器が出火元とみられた。
 火災後、施設の防火態勢の不備や行政のチェック不足が明らかになった。2,006年に7人が犠牲になった大村市のグループホーム火災で強化されたスプリンクラーの設置基準もあらためて議論の的になった。
 ベルハウスには廊下と階段を区分する防火扉がなかった。長崎市は火災前の指導で防火扉の不備を把握しながら、改善されたかチェックせず、排煙窓がないなどの建築基準法違反を見落としていた。
 グループホームのスプリンクラーの設置基準は大村市の惨事を踏まえ、延べ床面積千平方メートル以上から275平方メートル以上になっていたが、ベルハウスに義務はなく、設置していなかった。
 消防庁は消防法令を改正し、15年4月から原則すべてのグループホームにスプリンクラーの設置を義務化する方針を決めた。夜間に1人で勤務する職員の負担を減らすため、火災報知機と連動する自動通報システムも義務付ける考えだ。
 一方、加湿器を製造販売したTDKは経済産業省から危害防止命令を受けた。11月末までに回収を呼び掛けるチラシやポスターを1億4千万枚近く配ったが、問題となった製品の回収率は約76%。リコール情報を消費者に届ける難しさが浮き彫りになった。
 火災が起きた建物に10月と12月の2回にわたり入った。薄暗く狭い廊下の壁には手のひらの跡。火元の部屋は天井や壁が焼け落ち、鉄骨やブロックがむき出しになっている。1階の食堂さえ、皿を置いていた跡を黒いすすが縁取り、建物全体に広がった煙の威力を物語った。所有者の藤田清子さん(74)は悲しげにつぶやいた。「おじいちゃんやおばあちゃんはカラオケで歌ったりして楽しい生活を送っていたのに」
 県内は認知症の高齢者が10年の3万5千人から25年は5万6千人に増えると推計され、介護施設の重要性も増す。悲劇の連鎖を断ち切れるか問われている。
(平成25年12月19日付長崎新聞より)
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【平成の長崎】は長崎県内の平成30年間を写真で振り返る特別企画です。

グループホーム「ベルハウス東山手」の火災で火元になった2階の部屋。中央に置いていた加湿器から出火した可能性が高いとみられる=2013年10月3日、長崎市東山手町
火元の部屋がある2階廊下は天井まですすで黒くなっている=2013年12月6日、長崎市東山手町の「ベルハウス東山手」
玄関から煙を上げるグループホーム「ベルハウス東山手」=2013年2月8日午後8時6分、長崎市東山手

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