「100年先へ」木桶で醤油造り 雲仙・山中商店 長崎県産品でこだわりの挑戦

 「ヤマト醤油(しょうゆ)」の醸造元、雲仙市千々石町の山中商店(山中藤久代表)が、木桶(おけ)を使った昔ながらの醤油造りに取り組む。五島市の職人が手掛けた木桶を使い、大豆や塩などの原材料には県産品を使用。山中代表は「桶も原料もすべて県産品で、次の50年、100年へと引き継いでいける醤油を造りたい」と意気込む。

 同社は1916年創業。山中代表によると、約50年前までは木桶を使っていたが、現在は温度管理や清掃が簡単な繊維強化プラスチック(FRP)製のタンクを使っている。木桶は手間はかかるが、木の表面にある無数の穴に醤油造りに欠かせない酵母菌がすみつき、長年使い込むことで独自の味を醸成するという。

 山中代表は3年前、県産品を使った醤油造りを構想。素材だけでなく製法にもこだわろうと昨年、五島市の桶職人、宮崎光一さん(26)に依頼。宮崎さんは県産杉を使い約半年かけて高さ、直径各約1メートルの木桶を完成させた。

 26日、宮崎さんが同社を訪れ、完成した木桶を届けた。宮崎さんは「1人でこの大きさを造るのは初めてで重圧もあった。こんな大仕事を任せてもらい、ありがたい」と話し、山中代表とともに工場内に設置。今後、水を張って桶をなじませるなどの工程を経て、春に大豆や塩、小麦を仕込む。醤油になるのは1年半から3年ほどかかるという。

 木桶の裏には一筆入れるのが習わしで、山中代表は「百年先の幸」としたためた。「立派な木桶に負けないような最高の醤油を造る。50年、100年と末永く愛される味に育てていきたい」と、筆に込めた思いを語る。「長い年月を経て修理で動かした時、後継者が先人の思いに触れるんです」と宮崎さん。2人を、木と醤油の香りが柔らかく包んだ。

完成した木桶を工場に設置する山中代表(左)と宮崎さん=雲仙市、山中商店

© 株式会社長崎新聞社