贈られし ひまはりの種

 いま、その花の季節ではないが、詩人まど・みちおさんに「ヒマワリ」という、花咲く景色が浮かぶような一編がある。〈ひとり げらげら/わらってる/まわりをしーんと/させちゃって〉▲「花が咲く」の「咲」には「わらう」の意味があるという。なるほど、これほどにぎやかに笑ってみせる花は、他になかなか思い浮かばない▲平成最後となった「歌会始の儀」の題は「光」で、天皇陛下はこう詠まれた。〈贈られしひまはりの種は生え揃(そろ)ひ葉を広げゆく初夏の光に〉。きのう発生から24年となった阪神大震災のかつての追悼式典で、遺族からヒマワリの種を贈られ、皇居・御所の庭で大切に育てたという▲そのヒマワリは、震災で犠牲になった少女の名にちなみ「はるかのひまわり」と呼ばれる。「しーん」とした追悼の時刻に耳を澄ませば、少女の無邪気な笑い声が遠くに聞こえたかもしれない▲種がやがて芽吹き、生えそろい、葉を広げる。復興の願いを一首に込めたのは、多くの被災地を訪ねては苦難に寄り添った、深い思いの表れだろうか▲少女の名の付くヒマワリの種は、東日本大震災、熊本地震と数多くの被災地にも届けられてきたという。人一人が生きた証しとして、被災地への心寄せとして、復興の誓いとして、今年も笑顔を咲かせることを。(徹)

© 株式会社長崎新聞社