検証 長崎市政 田上市長の3期 <原爆・平和> リーダーシップ求める

 6月上旬、8月9日の長崎原爆の日の平和祈念式典で市長の田上富久が読み上げる平和宣言文の起草委員会。複数の委員が、安倍政権が意欲を示す憲法9条の改正に反対する文言を盛り込むよう求めた。これに対し、委員長の田上は会合後、報道陣の取材に「国民的な議論が第一だ」と述べ、文言追加に難色を示した。

 結局、今年の宣言文は憲法について「平和主義を揺るぎない柱の一つに据えた」などと触れるにとどめた。安倍政権が集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定した2014年の宣言文では「平和の原点が今、揺らいでいる」と懸念を示していただけに「トーンダウンしている」(ある起草委員)。

 田上は被爆地の市長として核廃絶に向けた対外アピールに精力的で、宣言文も世界情勢への言及に力を入れ「国際的な共感を得る」と評価する起草委員はいる。半面、2015年には、政府の安全保障政策に危機感を示していた識者を起草委員会から外し、平和祈念式典で「平和への誓い」を読む被爆者の選考は2017年に被爆者5団体の持ち回りから公募制に変更。「政治問題への発言封じ」とみる被爆者もいる。平和活動家の一人は「市長は多方面に配慮し、自分の明確な意思を示さない。リーダーシップがほしい」と評する。

 一方、長年の懸案である、被爆未指定地域で原爆に遭った「被爆体験者」問題を巡っては、田上は「どんなルートでもいいから解決したい」と語るが、具体的な成果はまだ出ていない。

 田上は2013年、被爆地域拡大を求めるための新たな知見を得るため有識者による「原子爆弾放射線影響研究会」を新設したものの、結論を得るまでに至っていない。

 2015年には「政治決着」を目指し14年ぶりに国に被爆地域拡大を要望することを表明した。だが知事の中村法道は事前協議がなかったと不満を示し、当時の長崎県議会議長、田中愛国も「長崎市のスタンドプレー」と批判。長崎県議会は国への被爆地域拡大の要望を求める意見書を否決した。その後も「県が動く気配はなく」(長崎市関係者)、足並みはそろわないままだ。

 被爆体験者訴訟の原告団長、岩永千代子(82)=長崎市=は「市長には何としても救済しようという熱意がもっとほしい。私たちの苦しみはどこまで伝わっているのだろうか」と語る。被爆者とともに高齢化が進む被爆体験者。残された時間は少なく、早期救済を求める声は日に日に高まっている。

憲法9条の改正について意見が上がった今年の平和宣言文の起草委員会=長崎県長崎市平野町、長崎原爆資料館

© 株式会社長崎新聞社