米国で原爆写真集出版へ テキサス大学傘下の博物館 日本の団体が826点提供

 米国の歴史博物館が被爆75年の2020年に、長崎と広島の原爆投下直後の惨状を収めた写真集を出版する計画を進めていることが3日、関係者の話で分かった。原爆写真を収集、保存している民間団体「反核・写真運動」(東京)が、保有する写真800点以上のデータを提供する。10月までに双方で覚書を交わした。
 原爆投下正当化論が根強い米国で、博物館が原爆被害の写真集を出版するのは珍しい。米政府が核兵器廃絶に逆行する姿勢を鮮明化させる中、核被害への理解を広げる動きとなるか注目される。
 博物館は、テキサス大の傘下にあるブリスコー・センター。米国の歴史を主要テーマに関係資料を収集、保存、活用している。20世紀米国史の専門家、ドン・カールトン館長らが11月中に来日し、被爆地広島、長崎の視察や被爆者との面談などを行う。長崎市では長崎原爆資料館などを訪ねる予定。
 「反核・写真運動」は1945年8月6、9日の原爆投下後、当時の報道機関や政府機関、軍などの所属カメラマンが撮影した写真の原板、オリジナル・プリントを保有する。撮影者ら550人超が呼び掛けて82年に発足し、核廃絶を求める立場で活動。現在は写真家ら8人で運営している。
 同団体は2015年、「決定版 広島原爆写真集」「決定版 長崎原爆写真集」(いずれも勉誠出版刊)を発行。27人が撮影した計826点を収載した。このうち長崎原爆に関する写真は11人の411点。同団体によると、この826点と各キャプションなどをブリスコー・センターに提供。20年までに英訳され、独自に編集、書籍化する。掲載写真の数など詳細は未定。原爆を巡ってどのように記述するかなど、意見を交わしながら検討する。米国での写真展も予定している。
 カールトン館長は、出版計画に関する文書で「米国の原爆攻撃の結果として、広島と長崎に及ぼした壊滅的影響について発表、展示したい。目的は歴史的、客観的視点から核戦争の悲惨な影響について米国市民に知ってもらう機会にすること」と説明している。
 「反核・写真運動」の小松健一事務局長は「原爆を投下した米国で写真を多くの人に見てもらうことは、命懸けで撮影した人たちの意にも沿う」と話している。

ブリスコー・センターに提供される1枚。原爆犠牲者を荼毘(だび)に付す人たち=1945年9月中旬、当時の長崎市浦上町(松本栄一撮影、「反核・写真運動」提供)

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