被爆者調査票153人分発見 1970年実施 差別の苦しみ記録

 被爆証言集を刊行している「長崎の証言の会」の前身組織が1970年に実施した被爆者実態調査の調査票153人分が、長崎市内で見つかった。核兵器廃絶運動を長年けん引した故谷口稜曄(すみてる)さんや故山口仙二さんらも回答し、就職や結婚に苦しむ生活状況や反戦反核の思いが記録される。証言の会の森口貢(みつぎ)事務局長(82)は「被爆から25年後の生々しい声や不安が如実に表れている。生活に焦点を当てて再度分析し、実相の解明につなげる」と話す。
 調査は前身組織「長崎の証言刊行委員会」が長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の協力を得て実施。67年に当時の厚生省が発表した「被爆者と非被爆者の間には生活や健康上の格差はない」とする原爆白書が疑問視され、被爆地では独自で調査しようとする機運が高まっていた。長崎市内の被爆者宅や原爆病院などを訪ね169人分を収集。結果は70年に刊行委員会が発行した被爆証言集「長崎の証言」に掲載した。
 森口事務局長が今年9月、刊行委員会の中心人物だった故鎌田定夫さんの自宅で遺品の整理をした際に153人分を見つけた。調査票では被爆状況や健康状態、家族構成などを細かく質問。ほかに収入や住居などの生活状況、就職や結婚への支障、被爆者としての要求も項目に入っている。
 調査票には被爆後の生活の様子が表れている。「入院費がかさむ」(69歳男性)「ぎりぎりの暮らし」(42歳男性)などの経済苦が多く見られた。「就職時に差別を受けた」(58歳女性)「就職はしたが欠勤を繰り返している」(38歳男性)など仕事への影響も少なくなかったもよう。「親戚に結婚を反対された」(41歳男性)などの支障に加え、「早産になった」「子が生まれた時は不安だった」と子への放射線の影響に対する声もあった。
 被爆者としての要求の項目では減税や生活保障の充実のほか「被爆者全員が手帳を交付されることを希望する」と求める意見が上がった。「戦争はいやだ」「非核三原則の堅持」「核武装の完全放棄」と反戦反核の願いも記されている。
 証言の会は分析を進め、調査票をデータベース化して公開する予定。森口事務局長は「現在では想像できないような被爆者の生活苦を伝えることで、核兵器の悲惨さを強く訴えることができる」と話した。

見つかった被爆者実態調査票。森口事務局長は「被爆者の実態解明につなげたい」と話す=長崎市目覚町、長崎の証言の会事務所

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