被爆体験を掘り起こせ

 長崎市の原田真美さん(54)は、80代の義母が被爆者であることは知っていたものの、詳しい話を聞いたことがなかった。ある時、家族のために当時の記憶を書き残してほしいと頼んでみた▲がれきの下から助け出され、けがをした足で焼け野原を歩いた生々しい体験が、チラシの裏にびっしり記された。そこにこもった義母の思いに心を動かされた原田さん。市の募集に応じ、被爆体験の家族証言者として活動を始めるきっかけになった▲原爆の非人道性を伝えるために被爆者の体験談は欠かせない。だが被爆者の平均年齢は82歳を超えた。近い将来、話を直接聞くことはできなくなる。体験談を掘り起こせる残り時間は限られている▲今や少なからぬ被爆者が高齢者福祉施設に入所している。そこで働く介護士らの中には、触れ合ううちに被爆体験を聞かせてもらい、それを形に残したいと考えるようになった人もいる▲悲惨な記憶を思い出したくない被爆者はいるかもしれない。だが、伝え残したいと思いながら語る機会がない被爆者もいるだろう。身近にそんな人はいないだろうか▲その人の話を最後に聞けるのは、もしかすると自分かもしれない。そんな思いでそっと声を掛けてみるのはどうだろう。よかったら原爆の時の話を聞かせてもらえませんか、と。(泉)

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