「唯一の被爆国」言う資格なし 被爆者団体 安倍首相と面会

 「核廃絶をする気はさらさらないのだろう」「『唯一の被爆国』と言うな」。安倍晋三首相が長崎の被爆者団体との面会で核兵器禁止条約に不参加の立場を改めて表明した9日、被爆者からは不満や怒りの声が相次いだ。この日の平和祈念式典で登壇した被爆者代表も政府の姿勢を「極めて残念」と批判した。
 平和祈念式典後、被爆者5団体が安倍晋三首相に面会した席上、長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の田中重光会長は首相に問い掛けた。「核兵器禁止条約に一言も触れておりませんが、その真意を述べていただけますか」-。広島と長崎の式典あいさつで核禁条約の文言がなかったためだ。
 首相は、日本を「唯一の戦争被爆国」と前置きした上で「アプローチは異なるものの核禁条約が目指す核廃絶の目標は共有している」と回答。核保有国と非保有国の対立を補う「橋渡し役」として「国際社会を主導していく」と述べた。段階的な核軍縮を目指す核拡散防止条約(NPT)体制などを重視しながらも、核禁条約の参加を否定する従来の姿勢を崩さなかった。
 田中会長は面会後の取材に「(首相の)真意は分からなかった」と述べ、「核廃絶の先頭に立たないなら、唯一の被爆国と言うべきでない。被爆者を無視している」と強く批判。
 県平和運動センター被爆連の川野浩一議長は「橋渡し役とは具体的に何か。言動が矛盾している。本気で核兵器を廃絶する気はさらさらない」と憤った。
 県被爆者手帳友の会の井原東洋一会長は「アプローチの仕方が間違っている。今のままで主導権は握れるわけがない」と怒りを隠さなかった。
 田上富久長崎市長は面会後の取材で、現状の枠組みで核軍縮が進んでいない点を指摘。核禁条約については「(首相から)前向きな言葉を聞けず残念だ」と話した。

安倍首相(左)に要望書を手渡した被爆者5団体の代表=長崎市大黒町、ホテルニュー長崎

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