長崎原爆の日 核禁条約の賛同迫る 首相は改めて不参加表明 被爆地と政府、溝埋まらず

 長崎は9日、原爆投下から73回目の「原爆の日」を迎え、長崎市松山町の平和公園で「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。田上富久市長は「長崎平和宣言」で、日本政府に対し核兵器禁止条約への賛同を求めたが、安倍晋三首相は式典後の記者会見で核廃絶への「アプローチが異なる」として改めて不参加の立場を表明。被爆地と政府の溝は今年も埋まらなかった。
 核禁条約は国連で昨年採択されたが、米国やロシアなどの核保有国や「核の傘」の下にある日本などは参加していない。規定の批准国数に達していないため、発効していない。
 田上市長は長崎平和宣言で、核兵器の非人道性や核廃絶を目標とした国連決議に言及し、核抑止論が根強い現状への危機感を表明。核に頼らない安全保障政策への転換を世界に訴えた。
 核禁条約の早期発効に向けて「自分の国の政府と国会に条約の署名と批准を求めてほしい」と世界に呼び掛け、さらに日本政府には「唯一の被爆国として条約に賛同し、世界を非核化に導く道義的責任を果たすよう求める」と強調した。
 「平和への誓い」は、長崎で被爆した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員、田中熙巳(てるみ)さん(86)=埼玉県新座市=が務め、核禁条約の採択を「これほどうれしいことはない」とし、日本の不参加には「極めて残念」と述べた。
 国連のグテレス事務総長は式典あいさつで、多くの国が賛同し核禁条約が採択されたことは、核軍縮が停滞している現状への「不満」との見方を示した。
 一方、安倍首相は式典あいさつでは条約に触れず、核廃絶には核保有国と非保有国の協力が必要として「粘り強く双方の橋渡しに努める」と強調。政府が昨年設置した有識者による「賢人会議」を秋に長崎で開き、具体策を探る方針を表明した。式典後の記者会見では、核禁条約に否定的な姿勢を改めて示した。
 長崎平和宣言ではこのほか、日本政府に対し、朝鮮半島の非核化に向けた動きを生かし、日本を加えた「北東アジア非核兵器地帯」実現への努力を要求した。被爆者や「被爆体験者」への一層の支援も求めた。
 式典には遺族や被爆者、核保有国を含む71カ国の大使ら約5200人が参列。原爆がさく裂した午前11時2分に黙とうし、名簿登載分で17万9226人に上る原爆死没者の冥福を祈った。

平和祈念式典終了後、原爆犠牲者を慰霊し、静かに手を合わせる参列者=長崎市、平和公園
2018年 長崎平和宣言(骨子)

© 株式会社長崎新聞社