安否確認

 母が電話で「避難しなさい」。18歳の息子「分かった」。いったん電話を切ったが、間を置かずに息子がかけてきた。「やばい」。水が迫っている、と。それから母は何回もかけているが、一向につながらない▲西日本豪雨に襲われた広島市内の映像が流れていた。濁流にのまれたとみられる息子を、母親は捜し続けている。電話よ、どうかつながって。LINE(ライン)のメッセージよ、「既読」になって。携帯やスマホを握り締めて過ごす人は今も数知れまい▲大丈夫だよ、助かったよ、と知らせる一言。避難し、弱り果てた人たちを少しだけ安心させる一言。被災地が求める物は数ある中で、最も必要で、望まれるのは「情報」なのかもしれない▲梅雨明けした被災地の気温は上がり、水が求められている。待ちに待った給水車が来た、給水所が近くにできた-というときに、その情報が、とりわけ高齢の被災者の耳に入らないことが多いと聞く▲何かの情報を得たら、すぐに隣の人へ。口から耳へと、一言一言をもらさず伝えよう。被災地でそう呼び掛けられているという▲横になったまま物思いに沈む夜を詠んだのか。古い川柳がある。〈来し方を思ふなみだは耳へ入(いり)〉。声が入ってくる耳に、涙の入るときもある。被災地で夜ごと、どれほどの粒が耳へと伝っているだろう。(徹)

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