「折り鶴」私なりの平和の形 指紋消えかかっても 高校生平和大使に託し19年、30万羽

 4センチ四方の折り紙に向き合い続けて19年。長崎県五島市玉之浦町の主婦、藤原良子さん(80)が国連に向かう高校生平和大使に毎年託してきた手製の千羽鶴が累計30万羽に達した。「平和って心の中にあっても言葉でうまく言えない。これが私なりの形」。今年も1万4千羽が美しく仕上がった。

 折り鶴制作は、藤原さんの生活の一部だ。まずは午前10時、自宅の掃除や昼食の準備などを済ませた後に1時間ほど。昼食後に2、3時間。夜は、風呂から上がって眠くなるまで折り続ける。一日に50羽、多い時には100羽以上が出来上がる。「折っていると、だんだん無心になるの」。折り目を付ける両人さし指の第1関節は少し変形し、人さし指と親指の指紋は消えかかっている。

 きっかけは2000年。古くからの友人の孫が核廃絶を訴える平和大使に選ばれた。「少しでも応援したい」と折り始めた。藤原さんの母と姉は長崎市で被爆していて、高校生の活動が人ごととは思えなかった。少しずつ数を増やしながら制作を続け、09年には秋月平和賞を受けた。ますます制作に力が入り、初めは年に数千羽だった鶴は多い年で2万羽にもなった。

 一方、世界には核兵器が存在し続け、戦争やテロも起きている。「千羽鶴を折ることが、本当に平和につながるのかな」と疑問を感じたこともある。だが高校生たちの熱心な活動に引っ張られるように、いちずに鶴を折り続けてきた。他にも、病気を患った人や受験に挑む人など身近な人のために鶴を折ってきた藤原さん。「私は高校生と同じように微力だけど無力じゃないと信じる。気持ちが世界や身近な人に届いてほしい」と穏やかに語った。

 藤原さんは8日、自宅を訪ねてきた第21代平和大使に千羽鶴1万4千羽を手渡した。8月下旬、大使がスイス・ジュネーブの国連欧州本部に届ける。同大使派遣委員会の平野伸人共同代表(71)は長崎新聞の取材に「千羽鶴は高校生たちが毎年勇気をもらい、国連でも絶賛されている。粘り強く30万羽を作り続けてきた藤原さんを心から尊敬する」と感謝の言葉を述べた。

1年間で1万4000羽の折り鶴を制作した藤原さん。針と糸を使って1000羽ずつ束にしている=長崎県五島市玉之浦町
藤原さんが折った鶴。19年間折り目を付けた人さし指や親指の指紋は消えかかっている

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