全県調査へ

 「彼を知り、己を知れば百戦して危うからず」と、かの有名な「孫子の兵法」を引くまでもないだろう。勝負事に限らず、商売でも受験でもスポーツでも恋愛でも、事前の入念なリサーチがその後の展開を左右することはよくある▲行政の仕事でも、施策の方向性を決めたり、その有効性を検証したりするのに「調査」は欠かせない。ただ、その「調査」が時に自己目的化してしまい、その結果、施策から速度感が失われてしまうことが役所の仕事ではしばしば起きる▲県が「子どもの貧困」について全県的な実態調査を実施する方針という。大切な問題だ。もちろん、調査の必要性も否定はしない▲だが、子どもは“パーセント”ではないし、人の苦しみは数値にできない。現実に生きづらさを抱えて、声にならない悲鳴を上げている子どもにとって「全国平均や他県との比較」など何の意味も持たない▲「経済的困窮」はさまざまな形で現れる。そのための指標も数多い。調査には一定の期間が必要だろう。だからといって、仮に調査に1年を要するとしたら、誰にも一度しかない子ども時代も1年過ぎてしまう▲大事なのは、あなたの苦しさをそのままにはしない、というメッセージを子どもたちに届けることだ。走りながら考える-そんな施策もあっていい。(智)

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