「投票率低下に歯止めかからず」 長崎県知事選 記者座談会

 長崎県知事選は、無所属現職で自民、公明両党が推薦した中村法道氏(67)が、無所属新人で共産党推薦の原口敏彦氏(56)を破り3選を果たした。止まらない人口減少や県民所得の低迷など長年の県政課題に加え、九州新幹線長崎ルート整備、石木ダム建設など大型事業の是非も選挙戦の争点に。だが舌戦は終始盛り上がりに欠け、投票率は36・03%と過去最低を更新した。担当記者が振り返った。(以下、文中敬称略)

 -投票率低下には歯止めがかからなかった。

 A 中村本人も選挙戦中に投票率を気にしていた。投票日を記したジャンパーを着たり、交流サイト「フェイスブック」で毎日のランチを紹介したりと、あの手この手でPRしたけど効果は見えづらかった。「(投票率低下を)雪のせいにできないかな」なんてぼやく陣営関係者もいたよ。

 B 勝敗はほぼ決まったようなものだったから、「圧倒的勝利を」が中村陣営の合言葉だった。政策論争そっちのけで「とにかく投票に行って」という感じ。

 C 4年前と同じ顔触れの一騎打ちで、新味がなかったことも響いた。原口を擁立した市民団体も新しい人材を探したようだけど、結局は共産に人選を頼るしかなかった。そもそも「知事になりたい人」が少ないのかね。

 -4年前と同じ候補者しかいない状況を、どう見たらいいのかな。

 D 地域の行き詰まりを象徴している気がする。県勢が低迷し財源が縮む中で、知事職は自由がなく、重責だけの魅力の乏しい仕事になってしまったのかも。

 E 候補者を出せない共産以外の野党もふがいない。県民の関心を引く構図に持ち込めなかったことは野党の力不足と言っていい。多くの選択肢を示せば候補者の論争も活発になり、有権者の関心が高まる好循環が生まれるはずだ。

 F 大きな変化を望まないとされる県民性が影響しているのかもね。だけど、それが現在の県勢の低迷を招いた側面も少なからずありそうだ。

 -有権者の反応はどうだった。

 F 薄すぎる。特に離島部では「選挙やってんの?」って取材中に何度言われたことか。候補者が島に来たことも知らない人が多かった。

 B 都市部でも反応は薄かったよ。ただ、出身地の島原半島での中村の人気ぶりには驚いた。選挙カーが通ると家の中から人が飛び出してきたからね。もっとも、投票率は他の地域と変わらず振るわなかったが。

 -投票率アップの妙案は何だろう。

 B 若者の投票率底上げが大事だと思うんだ。大学の授業を1こまもらって、候補者が若者に思いをぶつけてみるのはどうかな。

 D 期日前投票の利用者は増えた。もっと投票所を増やして、行きやすい環境をさらに整えれば一定の効果があるんじゃないの。

 E 平戸市の移動投票所のような取り組みは評価していい。過疎地域では「投票所に行くだけでも大変」という声が根強いからね。

 A 投票率低下はわれわれマスコミに突きつけられた課題でもある。果たして工夫して多角的に報じられたかどうか。

 -候補者間の政策論争はどうだった。

 A 大型事業で両候補の対立軸がはっきりしていた割には、大して深まらなかった。中村には、新幹線の全線フル規格化に難色を示す佐賀県をどう説得するのかや、統合型リゾート(IR)誘致の要件を満たすための具体的な道筋を掘り下げて語ってほしかったな。

 B 実績を具体的に説明しようとはしていたけど、数字が多くて「議会答弁みたい」なんて声もあった。中には「勉強になった」と言う大学生もいたよ。

 D 石木ダム問題はドキュメンタリー映画の県内試写会の期間と重なり、県民の関心は高まっていたのに、候補者間の論争には結び付かなかった。

 C 建設反対は原口が特に強調していた主張で、演説の受けが一番良かったようだ。ただ感情に訴えかけるだけでなく、不要論の具体的な根拠も盛り込んでほしかった気はする。推進派の中村からもダムの必要性について説明が聞きたかったが、演説で言及はなかった。

 -中村は信任を得られたのかな。

 B 県民の半数以上が棄権したからね。とはいえ、投票者の7割以上が中村の名前を書いた。棄権した人にも中村支持の人はいただろうし、投票率だけで判断するのは難しいよ。

 E 「目立った失政はなく、他に適当な人もいない」という“消極的信任”も聞かれた。全幅の信頼ではなくとも、手堅く県政を運営してきた実績が有権者に認められたとはいえる。

 C 一方で4年前と比べると、原口は約1万票上積みしたのに対し、中村は約6万票減らした。原口が共産公認から無所属に変わり支持を広げたのか、現職への不満分子が造反したのか、それとも投票日の悪天候のせいか-。いろいろな見方ができるけど、この数字は「信任」を考える上で頭に置いておきたい。

 -3期目の課題は何だろう。

 D 人柄の良さや行政マンとしての有能さは多くの人が認めるところだが、そろそろ明確な「中村カラー」を打ち出してほしい。

 B これまでの事業は歴代知事からの既定路線が主だったからね。周囲からは「政治家になりきれないまま3期目を迎える」なんてやゆも聞かれる。政治家らしい決断力の発揮が求められていると感じるよ。

 A 長崎市は今月の定例市議会で、MICE(コンベンション)機能を中核とする複合施設整備の関連予算議案を提出する。県は「MICE施設との重複を見極める」として保留にしてきた県庁舎跡地活用について判断を迫られるだろう。九州新幹線長崎ルートについては、県が近く整備方式ごとの経済波及効果の試算結果を示す。石木ダム問題では、選挙期間中に反対地権者との対話に応じる意向を示した。決断力を試される局面が、早速やってきそうだね。

知事選は盛り上がりに欠け、投票率は過去最低を更新した。写真は開票作業の様子=4日午後9時53分、長崎市魚の町の市民会館

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