直木賞に今村翔吾さん「塞王の盾」と米澤穂信さん「黒牢城」

今村さんの「塞王の盾」と米澤さんの「黒牢城」

 第166回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、直木賞に大津市在住の作家今村翔吾(いまむら・しょうご)さん(37)の長編歴史小説「塞王(さいおう)の楯(たて)」(集英社)と米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)さん(43)の「黒牢城(こくろうじょう)」(KADOKAWA)が選ばれた。

 今村さんは京都府加茂町(現木津川市)出身。2017年春に、江戸時代の火消しを描いた「火喰鳥(ひくいどり) 羽州ぼろ鳶(とび)組」でデビュー。「八本目の槍」(2019年)で吉川英治文学新人賞、「じんかん」(20年)で山田風太郎賞、21年には「羽州ぼろ鳶組」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞している。直木賞は「童の神」(2018年下半期)、「じんかん」(20年上半期)に続く3回目のノミネートで受賞となった。京都新聞朝刊で、平家物語を題材にした「茜唄」を連載中。 

「塞王の楯」は、石垣づくりをなりわいとする「穴太(あのう)衆」と、全国有数の鉄砲づくり集団である「国友衆」が関ヶ原の戦い前夜、琵琶湖畔の大津城で繰り広げた激闘を描く。穴太衆「飛田屋」の将来を担う匡介(きょうすけ)は「己の石垣で二度と戦の起こらない真の泰平を生み出したい」と願い、国友衆の若き鬼才・彦九郎(げんくろう)もまた「泰平を生み出すのは、決して使われない砲よ」と、武器による平和を希求する。

 「一つだと何の変哲もない石も、寄せ合い、噛み合って強固な石垣になる。人もまた同じではないか。大名から民まで心一つになった大津城。それこそが、--塞王の楯」とつづる。果たして戦いの行方は…。

 今村さんは常々、「正しさは相対的なもの。戦争を生み出すのも平和な世を作るのも、結局は人の心ではないか」と語っている。本作でも、史実を下敷きにしながら「人間とは何か」「正義とは何か」に迫っていく。武士を脇役に回し、職人を主役に描いた戦闘シーンは圧巻。大津城の内と外、視点を巧みに切り替えながら、最強の楯と矛がそれぞれに追い求めた理想に迫る。

 作中に「最強の楯と至高の矛、それらを生み出す職人集団が、同じ近江国に同居しているというのも不思議な話である」とあるように、滋賀が“主役”の小説でもある。「逢坂の関を越えると、眼下に雄大な琵琶の湖が広がる。傾いた陽に照らされた湖面が、まるで薄紅色の鱗を撒いたが如く煌めいて美しい」と、情景描写にも地元愛をにじませている。 

  ◇

 芥川賞には、砂川文次(すながわ・ぶんじ)さん(31)の「ブラックボックス」(群像8月号)が選ばれた。

今村翔吾さん(11日、京都市中京区・京都新聞社)
今村さんの「塞王の楯」
米澤さんの「黒牢城」
砂川さんの「ブラックボックス」掲載の「群像8月号」

© 株式会社京都新聞社