コロナ危機「学ぶことも多い」「9月入学は正しい」 日本電産・永守会長インタビュー

日本電産の永守重信会長(2020年2月、京都市中京区)

 新型コロナウイルス感染症の流行が、企業の存立基盤を揺るがしている。経済活動の根幹であるヒトやモノの流れは世界規模で凍り付き、需要は文字通り「蒸発」した。モーター大手の日本電産(京都市南区)を創業した永守重信会長(75)は「コロナによる影響は1年半以上続く」と読む。コロナ後の社会を見据え、すでに働き方や人事評価の抜本的な見直しにも着手した。強い感染力を持つ新型ウイルスの厄災は、事業や仕事の在り方をどう変えていくのか。企業経営の「カリスマ」に聞いた。

 ―今回の「コロナ危機」は、過去の金融危機や自然災害と比べてどう違いますか。

 「大きく異なるのは人命だ。リーマン・ショックの時は徹夜も辞さず必死に事業を立て直し、1年後に最高益を出した。だが今回は感染すれば最悪命を落とす危険がある。3月から原則テレワークにしているが、生産性は3分の1に落ちた。事態が長引くと想定し、うまく回るようにシステムを作り直す」

 ―経営危機を何度も乗り越えてきました。

 「2011年のタイ洪水を教訓に世界中に生産拠点を広げ、45カ国に工場がある。最近の米中貿易戦争でも、中国から輸出する製品をメキシコに移すなど非常にうまくいった。だが今回はサプライチェーン(部品の調達・供給網)が乱れに乱れた。会社を経営して約50年になるが、こんな事態は初めて。部品調達は2次、3次下請けまで把握し、生産地も分散する必要がある」

 ―影響はどのくらい続きそうでしょうか。

 「1年半は続くと見ておいた方がいい。グローバルで経済が完全に元に戻るのは3年かかるだろう。だが悲観しすぎはいけない。コロナには学ぶことも多い。過去50年を振り返ると10年ごとに大きな壁にぶつかり、その度に問題が解決できた。今回も仕事のやり方を変えて乗り越えたい」

 ―テレワークの浸透で仕事風景は変わりつつありますが、一方で自己管理も必要です。

 「ドイツや米国は同じ環境で生産性が落ちていない。日本は住居が狭いという問題もあるが、根本的に『指示待ち族』が多い。プロアクティブ(積極的)な人材を育てると同時に、今の慣習やシステムを変えないとテレワークは機能しない」

 ―具体的な取り組みはありますか。

 「4月から人事評価制度を大きく変えた。実績を重視し、5段階で厳密に評価する。入社年など年数による賃金の加算も撤廃した。賞与で2倍の差が出たり、場合によっては10倍もあり得る。結果次第で明らかな賃金格差を付けていく」

 ―コロナ後の世界は一段と競争が激化すると予測しています。

 「企業も個人も厳しい競争になり、勝ち組と負け組がはっきりするだろう。業界内でも利益が出るのはせいぜい3位まで。大切なのは、極端に売り上げが落ちても驚かず、きちんと利益が出せるよう知恵を絞ることだ」

 ―企業はこれからどんな経営を目指すべきでしょうか。

 「特異性を磨くべきだ。それがないと値段をたたかれて終わるだろう。また、京都弁で言う『始末』も大事になる。余計なところに金を使わず、たとえ休業中でもお客さんを迎える準備を決して怠らないという姿勢だ」

 ―4月に就任した関潤社長とともに、トップダウン経営への回帰を明言しました。

 「後継者選びは『失敗しない』と言ってきたが、創業者から事業を継ぐのはやはり難しい。(初の社長交代で就任した吉本浩之前社長らによる)集団指導体制は、会議ばかりで決まらなかった。現在は時間軸とコストが絶対的に重要だ。いかに早くやるか。ライバルの中国企業は決断が早く、コスト力につながる技術も高い」

 ―「9月入学」が議論されていますが、大学経営にも関わる立場からどう考えますか。

 「私は推進派だ。大学が留学生を多く受け入れようとする中、9月入学は優位。変革に大変な労力も要るが、何十年先を見ればグローバル基準で正しい選択だと思う。企業も新卒一括採用から随時入社に変えればいい」

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