祇園に漂う「におい」で対立 臭気と風情、各地で波紋  甘いにおい苦痛と提訴も

風情ある町並みが人気の祇園新橋かいわい。においをめぐる焼き鳥店と地域の対立が続いている(京都市東山区)

 お茶屋が立ち並ぶ重要伝統的建造物群保存地区。京都市東山区の祇園新橋かいわいの落ち着いた町並みに、漂うにおいが波紋を広げている。景観に「におい」は含まれるのか―。

 京都市東山区の祇園新橋かいわいに開店した焼き鳥店を巡り、店と地元の「祇園新橋景観づくり協議会」との対立が昨年表面化した。落ち着いた風情が京都屈指の人気スポットだけに、協議会は臭気や煙といった目に見えない環境も守るべき地域の「景観」の一つとして徹底した対策を要望。焼き鳥店の近くにある日本料理店は「お客さんを迎えられる状態ではない」として昨年4月は急きょ10日間ほど臨時休業した。焼き鳥店はコストの面で難色を示し、平行線をたどった。

 気分を害する臭いを巡る議論は各地で起きている。

 2014年には神奈川県逗子市が、逗子海岸の利用ルールを定めた「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例」を改正、海水浴シーズン中の砂浜での飲酒やバーベキューを全面的に禁止した。逗子市によると、13年夏に利用客のマナー悪化によるトラブルが多発、飲酒による治安悪化や騒音のほかバーベキューの臭いについても住民から苦情が相次いだため、関係者を交えて集中的に議論を重ねた。罰則規定はないが、施行から5年たった現在、海水浴客に条例の内容が定着してきたという。
 10年には京都市内で菓子製造会社の工場から出る甘いにおいで精神的苦痛を受けたとして、周辺住民が会社に損害賠償を求めて提訴した裁判で住民側が一審で勝訴し、後に和解している。
 臭いの問題について、環境やまちづくりに詳しい立命館大産業社会学部の永橋爲介教授は「景観の問題と捉えると議論が窮屈になるのでは」との考えを示す。
 永橋教授は、過去に大阪で野宿者と地域住民の対話の席に立ち会った経験を挙げる。「決していいにおいでなくても、駅に降り立った時の臭いで自分の街に帰ってきたと思えるとの発言をきっかけに『わが街』についての相互の理解が深まった」と指摘。「まちの記憶とにおいは密接に関わりがあるのは確か」と話す。
 そのうえで、今回の件については「景観問題と捉えるよりも、地域が『まちのイメージ』として何を大事にしているのかを丁寧に話し合うことが大切だ。立場の異なる方たちが話し合うことで一緒に取り組めることも見えてくるかもしれない」と話している。

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