ゲストハウス〝冬の時代〟京都で廃業相次ぐ 市の負担増政策に「簡易宿所つぶしだ」

ゲストハウスの従業員と談笑する外国人宿泊客ら(京都市下京区・ハナホステル京都)

 京都市内に点在し、安価な宿泊費や宿泊客同士の交流を強みにして観光客の受け皿となるゲストハウスなどの簡易宿所。「最近、人件費などの経費負担に耐えられず、廃業する事例が出てきている。市の政策によって生み出された被害かもしれない」。そんな声が京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」に寄せられた。昨年10月からの宿泊税の徴収や、来年4月に始まる「駆け付け要件」の全面適用で「冬の時代」を迎えつつある簡易宿所の実態を追った。

 「3197施設」。今年9月末時点で市内で営んでいる簡易宿所の数だ。旅館・ホテルの648施設と比べて多く2014年度の460施設から7倍近くに増加した。
 供給過剰感のある簡易宿所では、生き残りをかけた事業者間の価格競争が激化。宿泊客の獲得のため、1泊千円以下など安すぎる料金で営業を迫られる簡易宿所には、宿泊税が経営にじわりと響く。税額について市は、1人1泊の料金が2万円未満なら200円、2万円以上5万円未満は500円、5万円以上は千円に設定した。
 ただ、実際の徴収を担う宿泊施設の受付では、観光客から「なぜ払う必要があるのか」といった不満を言われ、支払いを渋られるケースも。京都簡易宿所連盟(下京区)が昨冬に実施したアンケートによると、4割の事業者が税込み料金の値上げを避けるため、宿泊税分を自己負担している現状が浮かんだ。連盟は「一律の税額では、宿泊料の安い施設ほど税負担が大きくなり、不公平だ」と不満を募らせる。
 「京都らしくないものは撤退してほしい」。今年6月に門川大作市長が京都新聞のインタビューで語った談話は、簡易宿所の経営者たちにとっては衝撃だった。経営者たちが市に疑念を持つ背景には、富裕層向けホテルの誘致に重点を置いてきた市の観光行政の方針がある。
 そんな中、簡易宿所に10分以内で駆け付けられるよう800メートル以内での管理者の駐在などを求める「駆け付け要件」の来年4月からの全面実施は、事業者にとってとどめの一撃のように映る。本年度の簡易宿所の廃業件数は、9月末までの半年間で98施設と、過去最多だった昨年度を上回るペースで急増中だ。駆け付け要件を満たすことによる人件費増加の懸念が、廃業の呼び水になっているとみられる。
 簡易宿所の規制を強化する理由として、火災や近隣トラブルの防止など、市は安全面の懸念を強調する。一方、簡易宿所の開業コンサルティングを担うある地元不動産会社の担当者は、駆け付け要件の全面適用について「資金力や人員に余力のある市外資本の事業者より、交流を重視する地元密着の零細施設が生き残りづらくなってしまう。『簡易宿所つぶし』のいけずな政策だ」と批判する。

■地区と事業者 共生の動きも 

 急増したゲストハウスなど簡易宿所と共生を目指そうと取り組む地域もある。清水寺の麓の京都市東山区六原地区では、駆け付け要件の来年4月からの全面適用を前に、簡易宿所の「管理者」の役割を地域住民が担えないか、事業者と検討を進めている。
 「簡易宿所は空き家の解消に効果的な一方、宿泊者がトラブルを持ち込む恐れがある。痛しかゆしだ」。そう語るのは、六原まちづくり委員会委員長の菅谷幸弘さん(67)だ。
 六原のある町内では、2007年の調査で33%だった空き家率が、ゲストハウス転用などが進んだ結果、18年には14%に減った。代わって湧き起こってきたのが、宿泊客による騒音やごみの投棄、迷惑駐輪などの問題だ。
 事業者の顔が地域に見えづらいことが住民の不信感につながっていると捉えた六原の各町内は、開業予定の宿泊施設に対し、町内会への加入要請や地域行事への協賛、災害時避難所としての場所提供などを求める協定の締結を求めている。取り組みが功を奏してか、同委員会によると、最近は地域から簡易宿所への苦情が出ることはほぼなくなったという。
 良質な事業者とは共存を図るために、同委員会は今春から、来年4月の駆け付け要件の全面適用に向け、六原周辺でゲストハウスなどを5軒運営する「トマルバ」(下京区)と、管理者の役割を地域住民がどこまで代行できるか、協議を重ねている。
 菅谷さんは「地域住民が管理者の役割を果たすことで、地域に雇用を生み出せる。良質な宿泊施設のお客さんを地域で受け止められれば、経済の地域循環につながるはずだ」と話し、構想を膨らませる。

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